双子のパパは冷酷な検事~偽装の愛が真実に変わる時~
理想の正義――side鏡太郎
『ええい、貴様のような極悪人は島流しじゃ!』
耳に嵌めたイヤホンから、時代劇のセリフが聞こえてくる。
食堂のテーブルに置いたスマホで、食事をしながらドラマ鑑賞をしているのだ。
俺が子どもの頃に放送されていた『いぶし銀・貫太郎』。主人公の貫太郎は江戸で大人気のカリスマ町奉行で、ドラマのクライマックスは罪人を裁く場面。
刑罰を言い渡した後、貫太郎が罪人に向かって手裏剣を投げ、罪人の頬に横一文字の傷がつく。
どんな悪党も貫太郎の手裏剣の腕に恐れをなして、最後にはひれ伏す。という、痛快なドラマである。
父親がこのドラマのファンだったため自然と俺も好きになり、名前が一文字違いの貫太郎には親近感と憧れを抱いた。
自分も、将来は悪党を成敗する仕事につきたい――。
現在検事をしているのも、幼い頃のそんな気持ちが心の底に残っていたからだと思う。
弁護士か裁判官という道もあったが、俺は迷わなかった。犯罪者を罰するという意味では、検事の職が一番貫太郎と近い気がしたのだ。
「あのう……」
時代劇らしく和楽器を使ったエンディングテーマに、目を閉じて聞き惚れる。女性の声が混じった気がしたが、歌唱のない曲なので気のせいだろう。
ひゅるり、と最後に小気味よい篠笛の音で曲が締まり、画面に【続】の文字が現れる。
そのタイミングで目を開けたら、ひとりの女性が俺の顔を覗いていた。