政略結婚ですが、冷徹御曹司はなぜか優しすぎる
あなたと歩む、日常という未来
カーテン越しに差し込む朝の光で、咲は目を覚ました。
尚紀の腕の中で眠るのが、もう当たり前のようになっていた。
——でも、それはようやく“当たり前”になったのだと、咲は改めて実感する。
「……おはようございます」
小さな声で呟くと、尚紀は微かに目を開けた。
「……ん、おはよう。もう起きたの?」
「はい。少しだけ……早く起きて、朝食を作ろうかなって」
「……ほんと?」
「ええ。たまには“奥さん”らしいこと、してみようと思って」
尚紀は微笑んで、咲の頬にキスを落とす。
「咲が台所に立つの、ちょっと感動しそう」
「ひどい。いつも任せてばかりって思ってた?」
「思ってない。……ただ、今まで“守られること”で精一杯だった君が、“誰かのために動こう”ってしてくれてるのが、すごく嬉しいだけ」
咲の胸がじんと熱くなる。
(そう……私は、守ってもらうだけじゃなくて、自分の手でこの人を支えたい)
「頑張ります。今日の朝ごはん、楽しみにしててくださいね」
「うん。……楽しみにしてる」
朝食は、卵料理とサラダ、それから焼きたてのパン。
派手さはないけれど、咲が初めて自分で組み立てた“ふたりの朝食”だった。
「おいしい。咲、これ本気で毎朝お願いしたい」
「それ、プレッシャーになります……!」
咲が笑うと、尚紀もくしゃっと笑う。
忙しい日々の中で忘れていた、“何気ない朝”という幸福。
——今、この瞬間がたまらなく愛おしい。
「ねえ、尚紀さん」
「うん?」
「ちゃんとした式、挙げたいなって思ってるんです。ドレスを着て、指輪を交換して……家族に見守られながら、ちゃんと“夫婦になります”って、言いたい」
尚紀は、すぐに真剣な顔になった。
「……それ、俺も考えてた。やっぱり、君にドレスを着てほしいと思ってた」
「本当?」
「うん。“契約”だったあの頃じゃなくて、“本物”の夫婦になった今、やり直したい。全部、君にふさわしい形で」
咲の胸がまた熱くなる。
(この人となら、どんな未来でも歩いていける)
「じゃあ、少しずつ準備……していきましょうか」
「うん。焦らず、でもしっかりとね」
尚紀が咲の手にそっと指を絡める。
「それに、式だけじゃない。——その先のことも、考えてるよ」
「その先?」
「新しい家のこと。御手洗家と朝比奈の“縁”を、きちんと形にしたいと思ってる。……咲が安心できる場所を、俺の手で作りたい」
「……」
「咲が御手洗家のことを考えてるとき、俺はいつも思ってた。“彼女に、もっと自由な場所を作ってやりたい”って」
咲は尚紀の手をぎゅっと握り返した。
「……ありがとう。私も、あなたと一緒に“新しい家族”を作りたいって思ってる」
ふたりは、見つめ合いながら微笑んだ。
契約から始まったふたりの関係は、いま、本物の“未来”を語るようになった。
その日の午後。
咲は尚紀の勧めで、御手洗本家の古い文書庫を訪れていた。
そこには、かつての母——そして祖父母の記録、咲のルーツが静かに眠っていた。
高倉千代が同行してくれていた。
「お母様が残された資料、もう一度確認しておいた方がいいと思いまして」
「ありがとうございます。私、ようやく少しずつ母に近づけてる気がするんです」
咲は棚の奥から、一冊の革表紙のノートを見つけた。
中には、母の筆跡で書かれた家族への想い、娘に宛てた未来への願いが記されていた。
——“咲が大人になったとき、ただ“継ぐ”だけでなく、幸せになってほしい”
涙が、自然と頬を伝った。
(もう迷わない。私は、幸せになります)
(お母さんがくれた命で、ちゃんと愛を育ててみせる)
夜、家に戻ると尚紀が静かに出迎えた。
「おかえり。……泣いた?」
「ちょっとだけ。……でも、前に進めた涙です」
尚紀が咲を抱きしめ、そっと囁く。
「……大丈夫。もう、誰にも邪魔させない」
「うん。私も、あなたと一緒にこの家を守っていく」
その夜、ふたりは何度も“未来”という言葉を口にした。
——そして、何度も確かめ合った。
この幸せは、過去の贖罪ではない。
これから紡ぐ、ふたりだけの物語のはじまりだった。
尚紀の腕の中で眠るのが、もう当たり前のようになっていた。
——でも、それはようやく“当たり前”になったのだと、咲は改めて実感する。
「……おはようございます」
小さな声で呟くと、尚紀は微かに目を開けた。
「……ん、おはよう。もう起きたの?」
「はい。少しだけ……早く起きて、朝食を作ろうかなって」
「……ほんと?」
「ええ。たまには“奥さん”らしいこと、してみようと思って」
尚紀は微笑んで、咲の頬にキスを落とす。
「咲が台所に立つの、ちょっと感動しそう」
「ひどい。いつも任せてばかりって思ってた?」
「思ってない。……ただ、今まで“守られること”で精一杯だった君が、“誰かのために動こう”ってしてくれてるのが、すごく嬉しいだけ」
咲の胸がじんと熱くなる。
(そう……私は、守ってもらうだけじゃなくて、自分の手でこの人を支えたい)
「頑張ります。今日の朝ごはん、楽しみにしててくださいね」
「うん。……楽しみにしてる」
朝食は、卵料理とサラダ、それから焼きたてのパン。
派手さはないけれど、咲が初めて自分で組み立てた“ふたりの朝食”だった。
「おいしい。咲、これ本気で毎朝お願いしたい」
「それ、プレッシャーになります……!」
咲が笑うと、尚紀もくしゃっと笑う。
忙しい日々の中で忘れていた、“何気ない朝”という幸福。
——今、この瞬間がたまらなく愛おしい。
「ねえ、尚紀さん」
「うん?」
「ちゃんとした式、挙げたいなって思ってるんです。ドレスを着て、指輪を交換して……家族に見守られながら、ちゃんと“夫婦になります”って、言いたい」
尚紀は、すぐに真剣な顔になった。
「……それ、俺も考えてた。やっぱり、君にドレスを着てほしいと思ってた」
「本当?」
「うん。“契約”だったあの頃じゃなくて、“本物”の夫婦になった今、やり直したい。全部、君にふさわしい形で」
咲の胸がまた熱くなる。
(この人となら、どんな未来でも歩いていける)
「じゃあ、少しずつ準備……していきましょうか」
「うん。焦らず、でもしっかりとね」
尚紀が咲の手にそっと指を絡める。
「それに、式だけじゃない。——その先のことも、考えてるよ」
「その先?」
「新しい家のこと。御手洗家と朝比奈の“縁”を、きちんと形にしたいと思ってる。……咲が安心できる場所を、俺の手で作りたい」
「……」
「咲が御手洗家のことを考えてるとき、俺はいつも思ってた。“彼女に、もっと自由な場所を作ってやりたい”って」
咲は尚紀の手をぎゅっと握り返した。
「……ありがとう。私も、あなたと一緒に“新しい家族”を作りたいって思ってる」
ふたりは、見つめ合いながら微笑んだ。
契約から始まったふたりの関係は、いま、本物の“未来”を語るようになった。
その日の午後。
咲は尚紀の勧めで、御手洗本家の古い文書庫を訪れていた。
そこには、かつての母——そして祖父母の記録、咲のルーツが静かに眠っていた。
高倉千代が同行してくれていた。
「お母様が残された資料、もう一度確認しておいた方がいいと思いまして」
「ありがとうございます。私、ようやく少しずつ母に近づけてる気がするんです」
咲は棚の奥から、一冊の革表紙のノートを見つけた。
中には、母の筆跡で書かれた家族への想い、娘に宛てた未来への願いが記されていた。
——“咲が大人になったとき、ただ“継ぐ”だけでなく、幸せになってほしい”
涙が、自然と頬を伝った。
(もう迷わない。私は、幸せになります)
(お母さんがくれた命で、ちゃんと愛を育ててみせる)
夜、家に戻ると尚紀が静かに出迎えた。
「おかえり。……泣いた?」
「ちょっとだけ。……でも、前に進めた涙です」
尚紀が咲を抱きしめ、そっと囁く。
「……大丈夫。もう、誰にも邪魔させない」
「うん。私も、あなたと一緒にこの家を守っていく」
その夜、ふたりは何度も“未来”という言葉を口にした。
——そして、何度も確かめ合った。
この幸せは、過去の贖罪ではない。
これから紡ぐ、ふたりだけの物語のはじまりだった。