政略結婚ですが、冷徹御曹司はなぜか優しすぎる
愛してる。それが、全部。
チャペルの大扉が、ゆっくりと開く。
陽の光が、ステンドグラスを通して虹色に差し込み、祝福の空気をまとわせていた。
純白のバージンロードを歩く咲は、これまでの道のりを思い出していた。
——初めて会ったあの日の、涼しげな声と、少し冷たい視線。
——契約から始まった関係。
——避暑地の“指切り”と、ずっと心に残っていた既視感。
すべてが、今日に繋がっていた。
尚紀が祭壇の前で静かに待っていた。
タキシード姿の彼は、いつもより少しだけ緊張していて、それがまた咲の胸をじんとさせる。
(ようやく、ここまで来たんだ)
式は、静かに始まった。
祝福の音楽とともに、誓いの言葉が交わされる。
「朝比奈尚紀さん、あなたは御手洗咲さんを、生涯愛し、尊び、支え続けることを誓いますか?」
「——誓います」
その声は、迷いなくまっすぐだった。
「御手洗咲さん、あなたは朝比奈尚紀さんを、生涯愛し、信じ、寄り添うことを誓いますか?」
「……誓います」
咲もまた、涙を堪えながら、力強く答えた。
指輪が交換される。
薬指にそっとはまったリングは、あの日のプロポーズの延長線にあった。
「それでは、おふたりを夫婦として認めます。——誓いのキスを」
咲が目を閉じると、尚紀が優しく、けれど確かな想いを込めて唇を重ねた。
静かな拍手のなか、世界がふたりだけのものになった。
(やっと……本当に“夫婦”になれた)
(もう、何も迷わない)
式後の披露宴では、親族や親しい人々が温かな祝福を贈ってくれた。
御手洗本家の長老たちからは、「咲こそが本家を継ぐにふさわしい」と正式な認定を受ける場面もあり、咲の瞳は少し潤んだ。
尚紀はそんな彼女の手をそっと握り、耳元で囁いた。
「君が“選ばれた”わけじゃない。“君が選んだ道”が認められただけ」
「……うん。ありがとう、尚紀さん」
乾杯のあと、ふたりは会場の外に出た。
澄んだ風が吹き、空は晴れ渡っていた。
「じゃあ、これからはふたりで“新しい家”を作っていこうか」
「はい。御手洗家でも、朝比奈家でもない、私たちの家を」
尚紀が咲の肩を引き寄せ、ふたりはそっと額を寄せ合った。
式のあとの夕方。
ふたりは一台の車に乗って、避暑地のあの別荘へ向かっていた。
誰もいない、静かな湖畔。
咲がワンピース姿に着替え、尚紀は軽装に戻って、ふたり並んであの“ベンチ”に腰かける。
「覚えてる?ここ」
「もちろん。……指切りした場所でしょ?」
「うん。あのときの女の子が、まさか妻になるなんて、本当に奇跡だよ」
「私、あの頃のこと、ずっと思い出せなくて……ごめんね」
「謝らないで。思い出してくれただけで、俺には十分だった」
風が静かにふたりの髪を揺らす。
咲はふと、尚紀の手を握りながら言った。
「ねえ。もう一度、指切りしようか」
「……え?」
「子どもの頃と同じように。今度は、未来の約束」
尚紀は微笑んで、小指を差し出した。
咲も小指を絡める。
「“これから先、ずっと一緒にいる”って、約束」
「指切った。破ったら——」
「針千本飲まなきゃ、ですね」
ふたりはふっと笑い合い、やがて、そのままキスを交わした。
夕暮れの湖に、ふたりの影が静かに寄り添う。
愛を証明するのに、言葉はいらなかった。
けれど尚紀は、そっと咲の耳元で囁いた。
「咲、愛してる。……それが、全部」
咲は笑って、同じ言葉を返した。
「私も、愛してる。あなたが全部」
そして、ふたりは静かに頷き合った。
過去も、傷も、秘密も、乗り越えて——
本物の愛を手に入れたふたりの物語は、ここからまた、はじまっていく。
陽の光が、ステンドグラスを通して虹色に差し込み、祝福の空気をまとわせていた。
純白のバージンロードを歩く咲は、これまでの道のりを思い出していた。
——初めて会ったあの日の、涼しげな声と、少し冷たい視線。
——契約から始まった関係。
——避暑地の“指切り”と、ずっと心に残っていた既視感。
すべてが、今日に繋がっていた。
尚紀が祭壇の前で静かに待っていた。
タキシード姿の彼は、いつもより少しだけ緊張していて、それがまた咲の胸をじんとさせる。
(ようやく、ここまで来たんだ)
式は、静かに始まった。
祝福の音楽とともに、誓いの言葉が交わされる。
「朝比奈尚紀さん、あなたは御手洗咲さんを、生涯愛し、尊び、支え続けることを誓いますか?」
「——誓います」
その声は、迷いなくまっすぐだった。
「御手洗咲さん、あなたは朝比奈尚紀さんを、生涯愛し、信じ、寄り添うことを誓いますか?」
「……誓います」
咲もまた、涙を堪えながら、力強く答えた。
指輪が交換される。
薬指にそっとはまったリングは、あの日のプロポーズの延長線にあった。
「それでは、おふたりを夫婦として認めます。——誓いのキスを」
咲が目を閉じると、尚紀が優しく、けれど確かな想いを込めて唇を重ねた。
静かな拍手のなか、世界がふたりだけのものになった。
(やっと……本当に“夫婦”になれた)
(もう、何も迷わない)
式後の披露宴では、親族や親しい人々が温かな祝福を贈ってくれた。
御手洗本家の長老たちからは、「咲こそが本家を継ぐにふさわしい」と正式な認定を受ける場面もあり、咲の瞳は少し潤んだ。
尚紀はそんな彼女の手をそっと握り、耳元で囁いた。
「君が“選ばれた”わけじゃない。“君が選んだ道”が認められただけ」
「……うん。ありがとう、尚紀さん」
乾杯のあと、ふたりは会場の外に出た。
澄んだ風が吹き、空は晴れ渡っていた。
「じゃあ、これからはふたりで“新しい家”を作っていこうか」
「はい。御手洗家でも、朝比奈家でもない、私たちの家を」
尚紀が咲の肩を引き寄せ、ふたりはそっと額を寄せ合った。
式のあとの夕方。
ふたりは一台の車に乗って、避暑地のあの別荘へ向かっていた。
誰もいない、静かな湖畔。
咲がワンピース姿に着替え、尚紀は軽装に戻って、ふたり並んであの“ベンチ”に腰かける。
「覚えてる?ここ」
「もちろん。……指切りした場所でしょ?」
「うん。あのときの女の子が、まさか妻になるなんて、本当に奇跡だよ」
「私、あの頃のこと、ずっと思い出せなくて……ごめんね」
「謝らないで。思い出してくれただけで、俺には十分だった」
風が静かにふたりの髪を揺らす。
咲はふと、尚紀の手を握りながら言った。
「ねえ。もう一度、指切りしようか」
「……え?」
「子どもの頃と同じように。今度は、未来の約束」
尚紀は微笑んで、小指を差し出した。
咲も小指を絡める。
「“これから先、ずっと一緒にいる”って、約束」
「指切った。破ったら——」
「針千本飲まなきゃ、ですね」
ふたりはふっと笑い合い、やがて、そのままキスを交わした。
夕暮れの湖に、ふたりの影が静かに寄り添う。
愛を証明するのに、言葉はいらなかった。
けれど尚紀は、そっと咲の耳元で囁いた。
「咲、愛してる。……それが、全部」
咲は笑って、同じ言葉を返した。
「私も、愛してる。あなたが全部」
そして、ふたりは静かに頷き合った。
過去も、傷も、秘密も、乗り越えて——
本物の愛を手に入れたふたりの物語は、ここからまた、はじまっていく。