ふたりだけのオーキッド・ラグーン

4*オーキッド・バス

 ガチャガチャと玄関先が賑やかになって、その音でまひろを目を覚ました 気がつけば、リビングは夕闇に包まれていた。
 遠目に見える空は群青色。一応、季節は冬なのだが、夏の国に冬という概念はない。 夏の夜空が広がっていた。

 「ただいま、気分はどう?」
 「瑠樹さん、おかえりなさい」

 音の正体は夫であった。手にはブリーフケース以外に買い物袋も持っていた。その袋、いかにも買い出ししてきたといわんばかりの膨れ具合である。

 「だいぶ気怠さは抜けてきたよ。シャワーを浴びようかなと思うんだけど、大丈夫かな?」
 「もういいんじゃない。寝汗もかいているし、気持ち悪いだろ? シャワーだけといわず、長湯しない程度で湯船に浸かってきたら」

 大量の汗が冷えて体調を崩した真紘にすれば、シャワーといえども体を濡らすことに警戒してしまう。けれど衛生的な面で考えると、瑠樹のいうとおりである。

 「食事は僕が作るから、真紘は風呂に入っといで」

 あの買い物袋の中身は、真紘の予想どおり、やはり食材であった。
 早く帰ってくるといっていたが、もしかして真紘の代わりに食事を用意するためだったのか?
 なんと、シンガポールでのふたりの最初の食事が瑠樹の手料理となるとは!

 なんだか申し訳ないなぁ~と真紘は思う。でも体が弱ってるときに、こうやって労わってもらえるのはとても嬉しい。
 ここは日本じゃなくてシンガポール。ここには、ふたりだけしかいない。
 ふたりだけしかいないなら、いざってときには頼りにできるのは、目の前にいる瑠樹だけになる。
 新婚早々という引け目もあるが、ここは素直に甘えよう。

 「真紘、お風呂できたよ! 先にどうぞ」

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