裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Segawa Rui

放課後の廊下は、今日も変わらず静かだった。

椅子とテーブルが置かれた場所は、
瀬川 琉生と花山 響の定位置になっている。

誰に見られるでもなく、
邪魔されるわけでもない、ちょうどいい空間だ。



「 しずくの件で、
一旦ブレーキかかった感じだな 」



琉生がそう言うと、
隣にいた響は
ノートパソコンから顔を上げて頷いた。

テーブルの上には、
響のノートPCと俺のスマホ。

まるで情報屋のブースみたいになってるけど、
やってることはただの雑談と分析だ。



「 でも、火は消えたわけじゃないよ 」

「 ま、そうだなー。
下手に水かけると、爆発するパターン 」



そんなやりとりをしていたそのとき、
後ろから軽快な足音が近づいてきた。



「 いたいた、やっぱここでしょ 」

「 ……梨々花か 」

「 ね、これ。
マジで意味わかんないんだけど。助けて 」



百瀬 梨々花は
バッグからプリントを取り出すと、
琉生の目の前にドサッと置いた。数学の問題。



「 はあ?
今くっそ頭使いたくないタイムなんだけど 」

「 暇してるだけでしょ。
てか、最近ずっとこの席でなにしてんの?」

「 休憩。情報の集積と休息の場ってとこ 」

「 はいはい詭弁 」



梨々花は何の遠慮もなく椅子を引き、
琉生の向かいに座る。響が少しだけ笑った。



「 響、やってやれよ。こう見えて天才だし 」



琉生がそう振ると、響は少しだけ眉を上げて、
けれどきちんとプリントに目を通し始めた。



「 ……これ、ベクトルの内積を使うと早い。
ここを図形的に見て、式立てて 」

「 ほんと!?わー、響くん神!」



梨々花の目がみるみると変わっていく。
さすが響、説明が無駄なく的確。ていうか、
よくこんなややこしい問題を
スラスラ解説できるな。



「 わかりやすっ。ありがとう、響くん 」

「 どういたしまして 」

「 ……やっぱ天才だわ、こいつ 」



琉生が言うと、響は少しだけ笑った。
梨々花も笑いながら立ち上がり、
プリントを鞄にしまう。



「 じゃ、またねー。暗くなる前に帰りなね 」

「 親かよ 」



琉生が返すと、
梨々花は手を振って去っていった。

響はその背中を目で追ってから、
ふと琉生の方を見る。



「 ……琉生って、百瀬さん来るたび
ちょっと人間っぽくなるよね 」

「 うるさい 」



ふと、遠ざかっていく梨々花の背中を見て、
なんとなく、幼い頃を思い出す。

気楽で、安心感のある、関係性。
琉生と梨々花は、ずっとそうだった。
今も、これからも多分変わらない。
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