裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Ichinose Haru

昼休みの教室は、
湿った空気に包まれていた。



「 内容がマジかどうかなんてどうでもいい 」



── 瀬川 琉生のその一言が、
" F " の本質を暴いた今日。



誰もがスマホを手にしながら、
息を潜めるように
画面をスクロールしている。



一ノ瀬 悠は、

窓際の席で
サンドイッチをかじりながら、

その光景を静かに眺めていた。



自分から進んで
誰かを売るつもりはない。

ただ、" F " に溢れる情報の流れからは、
常に目が離せなかった。



ふと、
記憶の底に沈んでいた顔が浮かぶ。



ーー槇 陸人 。
中学時代、誰よりも一緒にいた存在。



互いの家を行き来し、
同じゲームに熱中し、
帰り道の坂を何度も並んで歩いた。



「 なあ、やっぱ俺たち、同じ高校行こうぜ。
あの公立、内申足りてるだろ?」



無邪気な笑顔で、
あのとき陸人はそう言った。

信じ切った目で、
まっすぐに。



そして、悠は、
何のためらいもなく頷いた。



( ……でも、最初から行く気なんてなかった )



後悔は無い。
誰とも同じ場所に行きたくなかった。
ただ、それだけだ。



他人に縛られたくない。
期待されたくない。

──その逃げ道として選んだのが、
この、八雲大学附属高校だった。



教室のざわめきが、
意識を現実に引き戻す。

どこかの席で笑い声が上がり、
別の席では
スマホを覗き込む声が交わる。



「 F、見た?」

「 また新しいの来てる 」



もう聞き慣れた、軽薄なフレーズ。

けれど、
気づけば悠も

ポケットの中のスマホに指を伸ばしていた。



【 投稿主 ◇ 匿名 / TARGET ◇ 一ノ瀬 悠

一ノ瀬 悠は、裏の顔がある。

Point ◇ 420pt 】



その瞬間、
胸の奥で静かに水面が波立った。

抽象的で、曖昧。
だが、それこそが一番たちが悪い。



( ……俺の過去を、知ってる奴がいる )



八雲附属に、
地元の人間はほとんどいない。

中学時代のことを知っている生徒は、
このクラスにはいないはずだ。



なのに、この投稿には確かに、
何かを知る人間の匂いがあった。



悠はスマホを伏せ、
ゆっくりと
教室全体に視線をめぐらせる。



ーー誰かが、自分を見ている。

誰かが、
自分の過去を知っていて、

" F " にそれを投稿した。



( ……誰が、知ってる?)



槇 陸人。
──もし彼が、誰かに話していたとしたら。

共通の " 誰か " が、
この教室に紛れている可能性もある。
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