裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Sakakibara Moko

体育のあとの教室は、
汗と日焼け止めの匂いが混じっている。

5月も半ば。

このくらいの季節になると、
日中はもうほとんど夏のような暑さだ。

 

生徒たちはだらしなく椅子に腰掛け、

飲み物をあおったり、
冷却スプレーを
脇や太ももに噴きつけたり、

それぞれの夏対策に追われている。



榊原 萌子は

首の後ろに手を回して
ひとつ結びを解くと、

髪を整えながらスマホを手に取った。

 

ちょうど、
" F " からの通知が鳴る。

クラスの空気が
ピリッと張り詰めた。

 

【 投稿主 ◇ 匿名 / TARGET ◇ 榊原 萌子

榊原 萌子は桐島 翔と付き合っている

Point ◇ 300pt 】

 

画面に表示されたのは、
" F " のタイムラインに更新された
自分に関する投稿だった。

 

「 これ、萌子のこと書かれてる 」



そう言って
スマホを差し出してきたのは、
大橋 詩帆。



「……誰が書いてんの?
普通にムカつくんだけど 」



隣で声を上げる舞に、
萌子は
鼻で笑うような素振りをした。



「 付き合ってないし。なにこれ、誰の妄想?」



あくまで余裕のある女を演じる。

心の奥では
怒りと焦りが渦巻いていたが、

それを悟らせたら負けだ。



「 大丈夫?」



詩帆の目は、
同情を含んでいる。

この女のこういうところが、
萌子は嫌いだ。



いつものように
笑って流そうとした瞬間、
また通知が鳴った。



【 投稿主 ◇ 匿名 / TARGET ◇ 榊原 萌子

榊原 萌子は桐島 翔に告白してフラレた

Point ◇ 580pt 】



( ……は?)



指が震えた。
けれど、顔には出さない。

投稿は明らかに悪質で、
半分は嘘だ。



深呼吸して、
気取られないようにスマホを閉じる。
怒ったら負けだ。



萌子は、翔に一度だけ
気持ちを伝えようとしたことがある。

" 告白 " とまではいかない、
曖昧な言葉遊び。



けれど、対する翔の答えは
シンプルだった。



「 ごめん。
たぶん俺、そういうの向いてないから 」



優しいけど、
きっぱりとした拒絶。

そのことを、
舞以外、誰にも言ったことはない。



投稿はリアルタイム。
つまり、舞ではない誰かが書き込んでいる。



( ……ふざけんなよ )



画面の向こうで、
誰かが、萌子の秘密を知っている。
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