裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Kirishima Sho

朝の光が差し込む教室で、

桐島 翔は
椅子に浅く腰掛けながら

窓の外に目をやっていた。

 

耳には、
届いたばかりの高級ワイヤレスイヤホン。



重低音がしっかり響くこの機種は、
以前から狙っていたものだった。

定価で言えば数万円。
アルバイトの時給でいえば
何十時間分だ。



けれど、翔は働いていない。
収入は―― " F " からの報酬。



イヤホンの充電ケースを机に置き、
蓋を開ける。

クラスメイトたちの視線が、
ちらちらと
翔に集まっているのを感じる。



翔は、
そんな視線をあえて無視したまま、
口元だけで笑う。



( 言わなくても、わかるやつにはわかるだろ )



投稿数が加点され、
報酬が増える。

" 売った " 分だけ、
金が手に入る。



ーー誰かの秘密を暴けば、
自分の懐が温まる。



翔は
スマホをポケットから取り出すと、
" F " の画面を開いた。



ちょうどさっき、
ひとつ投稿が反映されたばかり。



【 投稿主 ◇ 匿名 / TARGET ◇ 大橋 詩帆

大橋 詩帆は、生徒会長に立候補する予定である

Point ◇ 550pt 】



昨日の放課後、
職員室の前を通ったときに
手に入れた情報。

ついさっき、
翔が投稿したものだ。



翔は、
些細な投稿を積み上げている。



大げさな暴露じゃなくても、

クラスメイトの動きや
人間関係の些細なゆらぎは、

誰かの興味を引く。



ふいに、隣から声がした。



「 おっ、ついに買ったな、それ 」



瀬川 琉生。
翔のイヤホンに目をやり、
ニヤついている。



「 まあね。音、ヤバいよ。マジで世界変わる 」

「 だろうな。俺も迷ってたんだよ、それ。
でも先に時計いっちゃった 」



琉生は袖をまくり、
左腕を見せつけるように持ち上げた。



そこには、
ブランドロゴのついた腕時計。

価格は軽く……
5万は超えるだろう。



「 ……最近、羽振りいいじゃん 」

「 お互い様でしょ?」



どちらも、目を逸らさない。

言葉の裏には、
互いが " F " で報酬を得ている、

そういう含みがある。



「 まあ、あんま調子乗って
派手にしすぎっと目立つけどな 」

「 琉生、目立つような投稿でもしてんのかよ 」



翔が試すように言った瞬間、
ガタリと音がした。

根岸 幸太がやってきて、
琉生の机に体重をかける。



だが、
根岸が声をかけるより先に、
琉生は笑って話題を変えた。



「 おーっす、ねぎ。
今日の化学、課題やった?」

「 よっ、俺を誰だと思ってるんだよ 」

「 忘れんぼうの根岸くんってとこだろ?」

「 ざけんな!」



からかう琉生に、
根岸の笑い声が弾ける。



翔は小さく息を吐いた。
琉生はやはり、
空気を変えるのが上手い。



根岸の登場をうまく利用し、
翔との会話さえも
さらりとかわしてみせた。
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