裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Miyashita Mio

【 投稿主 ◇ 匿名 / TARGET ◇ 宮下 澪

宮下 澪は9年前に起きた殺人事件と繋がっている

Point ◇ 1030pt 】



朝のHRが始まる、5分前。

宮下 澪は、
机の下でスマホを握りしめたまま、

浅く呼吸を繰り返していた。



表示された投稿を、
何度も読み返す。

指先が震えるたびに、
画面を閉じ、

けれど気になってまた開いてしまう。



( ……消えてほしい )



そう願う心とは裏腹に、
" あの事件 " が澪の頭を支配する。



はっとして、
後ろを振り向く。



いちばん後ろに座る彼女は、
無表情で
スマホを見つめているのが見えた。



( ……しずくも、見た?)



ついこの前、
私たちが幼なじみだという投稿が流れたばかり。

狙い撃ちされたような
投稿が続いている。



誰かが、
教室の中で私を観察している。

私のーー私たちの過去を、
暴こうとしている。



「 おはようございます。みんないるね?」



鴨田先生の声が響き、
教室の空気が揺れる。



澪は慌てて
スマホをカバンにしまったが、

視界の端に
投稿の文字がこびりついたままだった。



【 殺人事件 】



「 事件 」ではなく、
「 殺人事件 」と記されていた。

その言葉の選び方に、
悪意を感じる。



でも、
それに " 関与 " しているのは、
私じゃない。



9年前、
小学2年生だった彼女は、
人を――命を、奪ってしまった。



あの日、私たちは
数人のクラスメイトと公園で遊んでいた。

秋の終わりの午後、
空には灰色の雲が流れ、

「 帰りましょう 」の音楽が
スピーカーから流れはじめていた。



私はいつも通り、
迎えに来た父と
ピアノのレッスンへ向かった。



彼女は、
帰り道にある歩道橋を
一人で渡ることになった。



……その後に起きたことは、
何度も聞かされた。



知らない男に声をかけられ、
追いかけられ、
逃げようとしたしずくは、

歩道橋の階段で
掴まれた腕をとっさに振り払った。



その拍子に男は後ろへ倒れ、
階段から落下。
ーー頭を打って、死亡。



正当防衛。
幼い彼女に罪はないと、
警察も判断した。



だけど。



報道陣が詰めかけ、
名前が報じられ、

家の前には
連日カメラが集まった。



彼女の家の隣、私の家にも。



彼女は
「 しずく 」と名前を変えた。

だけど家や学校は変わらず、
笑顔だけが消えた。



……あの日から
私たちは少しずつ、話さなくなった。



けれど、2年になってーー
" F " が始まってから、
私はまた、しずくに近づいた。



声をかければ、
一緒にお昼を食べるようになった。



言葉がなくてもいい、
静かな時間が、
私にとっては安心だった。



だけど、そのせいで――



( ……もう、しずくとは、一緒にいられない )



私が沈黙を守れば守るほど、
しずくがまた傷ついてしまう。



午前の授業はあっという間に過ぎ、
昼休みのチャイムが鳴った。

私は急いで席を立ち、
しずくの席を通りながら呟く。



「 ……ちょっと、図書室行ってくる 」



しずくは
一瞬だけ目を見開いて、

困ったように、
けれど穏やかに笑った。



その顔を見たくなくて、
澪はすぐに目を逸らした。



――それから。



次の日も、その次の日も。
澪はしずくに話しかけることをやめた。



教室で目が合いそうになれば、
わざとらしく視線を逸らす。

昼休みも、放課後も、
避けるように教室を離れた。



最初のうち、
しずくは私を待っていた。

机に座ったまま、
静かに、待ってくれていた。



でも、3日が過ぎたころ。



彼女もまた、
昼休みになると教室を出るようになった。
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