裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Kirishima Sho

新しい一週間の始まり。
真夏のように太陽が照りつける朝、
桐島 翔は八雲大学附属高校の校門をくぐった。

教室に着くと、ざわつきが耳に届く。
後ろのボードに座席表が貼り出されていた。
近づいて、自分の名前を確認する。



テストの結果を反映した席替え。

もう隠す必要もないとばかりに、
座席は右前から綺麗に昨日の順位表通りだ。

誰がどこに立っているのか、一目瞭然になる。



翔の名前は右列、前から四番目。
前回より少し後ろに下がった。

その前の席を見ると、
「 大橋 詩帆 」と記されている。



ーーやっぱりな、と翔は心の中で呟く。
以前、大橋は右列の一番後ろに座っていた。

榊原 萌子と藤井 舞が宮下 澪に近づいたことで、
大橋はその輪から外れた。

あの2人と距離ができて、
勉強に集中できたのかもしれない。



登校する生徒たちが次々と教室へ入ってきて、
あっという間にいつもの喧騒が広がる。



「 え、舞と澪、隣じゃん!やば、羨ましー 」

「 ラッキー、よろしくね〜 」



萌子と舞は、
机に向かって静かに数学のテキストを開いていた
宮下に話しかけている。



「 うわ、いちばん前……マジか…… 」

「 俺は逆に一番後ろだ。
ふー、当てられる確率、減ったな 」

「 俺、変わんねーやー 」



並んで登校してきた
百瀬 梨々花、根岸 幸太、瀬川 琉生も
座席表を覗き込みながら反応を示す。

少し百瀬をターゲットにした投稿が
上がってからというもの、

この三人が一緒にいる姿を
今まで以上によく見かけるようになった。



そんな中、ふいに翔のすぐ後ろの席に
誰かが荷物を置いた。

ふと振り返ると、そこにいたのは
4月からの転校生――日下部 律だった。



「 ……おはよう 」

「 よっ、よろしくな 」



静かな声に、翔は軽く笑って返す。

彼は転校してきたばかりということもあり、
以前は教室の左奥に座っていた。

今回の席替えで右に来たということはーー
つまり、彼の成績は相当上位だ。



午前の授業が終わり、昼休みが始まる。
翔はいつも通り自分の席で弁当のふたを開けた。

左隣では、
宮下と舞の席の近くに萌子が椅子を引き寄せ、
立石 葵も混ざって賑やかに話している。



ふと気まぐれに後ろを振り返ると、
律が一人で机に弁当を置いていた。



「 一緒に食う?」

 

思いつきで言った言葉に、
律はわずかに驚いたような顔をしたが
「 いいよ 」と静かに頷いた。

ふたりは律の机を挟み、
向かい合うような形で昼食を取り始める。



「 翔ってさ、Fに投稿してんの?」



律の問いかけは、唐突だった。
しかし、言葉に驚くよりも先に、
翔の口が反応していた。



「 ああ、してるよ 」



そう答えた自分に、少し驚く。

Fの利用を率直に肯定したのは、
これが初めてだ。

律は少しだけ目を細めて「 ふーん 」と呟いた。



「 お前は?」

「 してない 」



即答だった。
まあ、転校してきたばかりの彼が、

クラスの誰かについて
何かを書き込もうとは思わないだろう。



それ以降、
翔と律は少しずつ言葉を交わすようになった。

律は寡黙だが、話しかければ応じてくれる。
そして、時折放たれる一言が、
翔の思考を刺激した。
< 59 / 190 >

この作品をシェア

pagetop