裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Asahina Chinatsu

朝比奈 千夏の毎日は、いつも駆け足だった。



朝は6時に起きて、弟たちの朝食を作る。
平日は高校へ通い、授業が終わると
制服のままバイト先の清掃会社へ向かう。

週に4回、15時半から17時半までの勤務。
更衣室でTシャツに着替え、モップを手に、
階段や廊下を黙々と拭きあげていく。



「 今日もありがとうね、千夏ちゃん 」



いつも最後にそう言ってくれる
パートのおばちゃんの声が、
その日の終わりをやさしく包んでくれる。



バイトが終わると、小走りで保育園へ向かい、
4歳の弟と一緒に帰路につく。

中学生の弟が洗濯機を回している間に、
千夏は夕食の支度へ。

冷蔵庫にある材料を素早く確認し、
無駄なく献立を組み立てていく。



母親が帰ってくるのはいつも22時すぎで、
それまでの家のことは、
ほとんど千夏の肩にかかっていた。

両親は正式に離婚をしたのは、
つい最近のことだ。

けれど、それよりずっと前から、
父親が家にいることは少なかった。



夕飯後はお皿を洗って、
21時に下の弟を寝かせる。

ワイシャツにアイロンをかけ、
単語帳を開いたまま歯を磨き、お風呂に入る。

22時頃に上の弟も眠りにつくと、
ようやく静けさに包まれたリビングで、
高校の課題を机に広げ、ひとりでペンを進める。



今回のテスト。
F組の中で、千夏は最下位だった。

しかも、" 暗黙のライン " と言われている
500点を下回ってしまっていた。



( マズい…… )



焦燥感に追われるようにして、勉強を続ける。
目がしょぼついてノートが掠み始めても、
ペンを止めることはできなかった。



「 ……千夏、もう寝なよ 」



22時過ぎ。仕事から帰ってきた母が、
心配そうに声をかけてきた。



「 うん。もうちょっとしたら寝る。
F組でいる間は、ちゃんと頑張りたいし 」



千夏はそう言って笑う。
けれど本音は、もういっぱいいっぱいだった。
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