裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Nagumo Shizuku

新しい席が決まった朝、
教室の空気は少し浮ついていた。

テストの結果で席が変わるこのシステムに、
文句を言う声はない。

成績がすべてで、点数が席を変える
──無機質なルールが、
日常の一部として受け入れられている。



自分の席がどこになったか、
誰が隣か、前後はどうか。

そんな話題で教室はにぎわっていたけれど、
南雲 しずくはその輪の外にいた。

いや、ずっと前から、
そこにはいなかったのかもしれない。



しずくの席は、前回と同じ。三列目の一番前。

黒板が近く、先生の声もよく通る。
後ろのざわめきから少しだけ距離があり、
まるで教室の喧騒から切り離されたような場所。

嫌いではない。
けれど、" 変わらない " 毎日に、
心のどこかがわずかに乾いていく。



席が変わったのは、
自分ではないクラスメイトたち。

その中でも、特に目を引いたのが、
大橋 詩帆だ。

詩帆の席は、右列の二番目。
斜め後ろから見るその背中は、
今日はいつもより真っ直ぐに見えた。



詩帆は今回のテストで、
瀬川 琉生を抜き、二位になった。

目標だと言っていた八雲大への推薦も、
ほぼ確定。

静かに、でも確実に、
夢に手を伸ばしていた。



その姿に、
しずくは心のどこかでほんの少しだけ、
うらやましさを覚えた。

目指す場所がある人は、まぶしい。
前だけを見て、真っ直ぐに進んでいける。



自分には、もう分からなくなっていた。
どこへ向かえばいいのか。
そもそも、向かう場所があるのかすら。



けれど、しずくは気づいていた。
詩帆の瞳の奥には、別の光があることに。



──ようやく手に入れたからこそ、
今度は " 壊したい " のかもしれない。

そんなふうに感じた瞬間、
詩帆がふとこちらを振り返った。
< 86 / 190 >

この作品をシェア

pagetop