裏SNS " F " - 友か、秘密か -
- side - Ichinose Haru
終業式の日の朝。
教室にはどこか緩んだ空気が漂っていた。
湿気を含んだ夏の気配が窓から入り込み、
うっすらと埃の匂いが立ちのぼる。
生徒たちは新しい席に座りながら、
誰ともなくおしゃべりを始めている。
スピーカーからは終業式の放送が流れるが、
F組は特例で、自由参加。
この通り、ほとんどの生徒が聞いていない。
机を指でトントンと叩く音、
椅子を引く音、ひそひそと笑う声が、
一定のリズムで教室を満たしていた。
一ノ瀬悠の席は、3列目の3番目。
教室のちょうど中央——目立ちすぎず、
かといって息を潜めてもいられない位置。
背中には後ろの視線が刺さり、
前には教師の目線が届く。
気の抜けない席だった。
スピーカーから流れてくる校長の話は、
遠くの誰かの独り言のように
ぼんやりと耳に届く。
ーー成績を上げましょう。
夏休み中は事故に気をつけましょう。
生活リズムを崩さないように。
お決まりの文句だ。
まるで全員が
同じ未来に進むかのような言い回し。
でも、俺たちはそれぞれ、
まったく違う場所に立っている。
放送が終わると、
鴨田先生が、静かに教卓へ立った。
ざわつく空気が、すっと引く。
「 ……さて。
終業式も終わったことだし、話をします 」
その声に、
教室の空気が少しだけ張りつめる。
「 まず、よくがんばったと思います。
F組という緊張感のある環境で、
成績が上がった人も、下がった人も、
みんなこの三ヶ月を何とか乗り越えた。
それは事実です 」
拍手が起きるわけではない。
けれど、前に座る朝比奈 千夏が小さく頷き、
隣に座る三枝 理子も姿勢を正す気配があった。
意識しなければ聞き逃すような、
けれど、確かにそこにある、頑張った証。
「 さて、もう一つお知らせがあります 」
途端に、教室のあちこちでざわめきが起こった。
鞄に手をかけていた生徒が動きを止め、
誰かが消しゴムを転がす音だけが浮き立つ。
今の時期で大事といえば、進路か、
それともーー
「 Fについてです。
みなさんが使っている " F " のアプリは、
あくまで学内限定の
社会実験としての運用です 」
その言葉に、空気が確実に変わった。
息を飲む音が混じり始める。
「 夏休み中は実験外とみなしますので、
" F " のすべての機能は、
明日の0時から停止されます 」
一瞬静まり返った教室に、
ざわざわとした波が駆け巡る。
教室にはどこか緩んだ空気が漂っていた。
湿気を含んだ夏の気配が窓から入り込み、
うっすらと埃の匂いが立ちのぼる。
生徒たちは新しい席に座りながら、
誰ともなくおしゃべりを始めている。
スピーカーからは終業式の放送が流れるが、
F組は特例で、自由参加。
この通り、ほとんどの生徒が聞いていない。
机を指でトントンと叩く音、
椅子を引く音、ひそひそと笑う声が、
一定のリズムで教室を満たしていた。
一ノ瀬悠の席は、3列目の3番目。
教室のちょうど中央——目立ちすぎず、
かといって息を潜めてもいられない位置。
背中には後ろの視線が刺さり、
前には教師の目線が届く。
気の抜けない席だった。
スピーカーから流れてくる校長の話は、
遠くの誰かの独り言のように
ぼんやりと耳に届く。
ーー成績を上げましょう。
夏休み中は事故に気をつけましょう。
生活リズムを崩さないように。
お決まりの文句だ。
まるで全員が
同じ未来に進むかのような言い回し。
でも、俺たちはそれぞれ、
まったく違う場所に立っている。
放送が終わると、
鴨田先生が、静かに教卓へ立った。
ざわつく空気が、すっと引く。
「 ……さて。
終業式も終わったことだし、話をします 」
その声に、
教室の空気が少しだけ張りつめる。
「 まず、よくがんばったと思います。
F組という緊張感のある環境で、
成績が上がった人も、下がった人も、
みんなこの三ヶ月を何とか乗り越えた。
それは事実です 」
拍手が起きるわけではない。
けれど、前に座る朝比奈 千夏が小さく頷き、
隣に座る三枝 理子も姿勢を正す気配があった。
意識しなければ聞き逃すような、
けれど、確かにそこにある、頑張った証。
「 さて、もう一つお知らせがあります 」
途端に、教室のあちこちでざわめきが起こった。
鞄に手をかけていた生徒が動きを止め、
誰かが消しゴムを転がす音だけが浮き立つ。
今の時期で大事といえば、進路か、
それともーー
「 Fについてです。
みなさんが使っている " F " のアプリは、
あくまで学内限定の
社会実験としての運用です 」
その言葉に、空気が確実に変わった。
息を飲む音が混じり始める。
「 夏休み中は実験外とみなしますので、
" F " のすべての機能は、
明日の0時から停止されます 」
一瞬静まり返った教室に、
ざわざわとした波が駆け巡る。