裏SNS " F " - 友か、秘密か -

- side - Kamota Sae

夏休みの高校には、特有の空気がある。

人の気配が消えた校舎は、
蝉の鳴き声が遠くで反響し、
空っぽの器のようだ。



鴨田 紗英は、
職員室の自席で積み上げられた紙ファイルを
一つずつ手に取っていた。

クラスの生徒たち、2年F組の資料だ。
出席、提出物、成績、そして人間関係の記録。



「 まったく……この暑さにこの分厚さ…… 」



愚痴めいた独り言を口にしながらも、
その手は確かに、丁寧にファイルを捲っていく。



春休みが終わる頃を思い出す。
初めて受け持つF組という特殊なクラスに、
彼女は心の底から緊張していた。

成績上位者で構成された特進クラスに
担任として何ができるか、
何が必要かを夜遅くまで考えた。しかし。



裏アプリ " F " ――。



まさか、そんなものが導入されるなんて、
想像もしていなかった。

しかもクラスの中だけで試験運用されるという、
聞いているようでいなかったような、
そんな扱い。

教師である自分さえ、
何もかもを把握しきれていない。
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