いつも君のとなりで


「なぁ、奈央。俺たち、別れないか?」

珍しく食事に誘ってくれた恋人の田岡広人の口から出てきた言葉がそれだった。

「え、、、突然、何で?」
「いや、俺の中ではずっと考えてたことだったんだ。奈央は、俺よりも給料貰ってるし、一人でも問題ないだろ?それに、3年付き合ってるけど、、、ずっとレスだし。」

広人はそう言うと、わたしから目を逸らし、それはまるで自分に原因があるわけではなく、わたしに原因があるとでも言い出そうな表情を浮かべていた。

「でも、それは!」
「奈央のことは、、、もう女として見れなくなっちまったんだよ。」

えっ、、、
だからなの?

わたしに触れてこようとしなくて、わたしから勇気を出して抱きつきに行っても「疲れてるから」って拒んできたのは、わたしをもう"女"として見れなくなったからだったの?

「それに、俺、、、好きな人が出来たんだ。だから、別れて欲しい。」

何だ、結局それか。

別れの理由を全部わたしに原因があるみたいに並べて、結局は"好きな人が出来た"から?

ふざけないでよ。

それって、わたしの知らないところで浮気してたってことじゃない。

わたしは立ち上がると、「さようなら。」と一言だけ吐き捨て、バッグを肩に掛けてお店を出ようとした。

すると、後ろから広人の「奈央!」とわたしを呼ぶ声がした。

わたしは少し期待してしまった。
「待って!」とか「ごめん!」とか、、、

しかし、広人の口から出てきた言葉は「傘、忘れてる。」だった。

あぁ、、、少しでも引き止めたり、謝罪する言葉を期待したわたしが馬鹿だった。

わたしはお店を出ると、土砂降りの雨の中、歩いて帰宅した。

雨に濡れて帰りたい気分だったんだ。
涙を誤魔化してくれるから。

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