シュガーラテ─火消しの恋は、カフェの香り

二人の温度-期待する気持ち

その日も、カフェにはゆっくりと時間が流れていた。

ハンドドリップのリズム、スチームミルクの音、窓際の席で静かに読書する常連たち。
どれも見慣れた風景のはずなのに――舞香の心は、ほんの少しだけ、違っていた。

「“また来ます”って言ってたけど、あの人……」

呟いてから、すぐに自分で首を振る。

別に、来てほしいわけじゃない。
そう思いながらも、扉のベルが鳴るたびに視線がそちらへ向いてしまう自分がいた。

――これって、なんなんだろう。

名前も知って、声も思い出して、何度か会話もした。
でも、それが“特別”なのかはまだ、わからない。

わからないまま、心のどこかが、あたたかくなる。

今日もまた、舞香は“誰か”の気配を探していた。
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