シュガーラテ─火消しの恋は、カフェの香り

支える力を信じる日

「テーブルクロス、シワもう一回伸ばそうか。カメラ入るって言ってたでしょ?」

香奈衣の声が、朝の文化センターのロビーに響いた。

フェイクグリーンに囲まれた四角いテーブル。
非常時でも淹れられるドリップバッグのコーヒーと、
簡易包装の焼き菓子が丁寧に並べられている。

「……はい、すぐに」

舞香は指先で端を整えながら、小さく息を吐いた。

“そなえるカフェ2025”――
今日だけの名前を与えられたこの空間が、
誰かの“安心の入口”になれたらいい。
そう思って準備をしてきた。

「緊張してる?」

香奈衣がふと、横に立った。

「……ちょっとだけ。でも、前よりはずっとマシです」

「そっか。じゃあ、あなたの出番ね。
今日は“守られる側”じゃない、舞香が本番で動く日」

「……はい」

まっすぐな返事が、喉の奥から自然に出た。

来場者はまだまばらだったが、
空気はゆっくりと動き出している。

焦らず、慌てず、
“この場所にいる意味”を信じて――

舞香は、カウンターに立った。
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