冷徹CEOは不幸なバツイチ女子を偽装婚約者に選びたい
8、身も心もつながって
ナナセコミュニティに入社し、設立記念式典 に出席するのはこれが初めてのこと。
二十五周年記念式典は入社直後で、私には全く縁のない社内行事だった。
今回出席できるのは、マッチングチームで実績を残せていることと、裕翔さんから出席を希望されたから。
今日の式典には多数の来賓をはじめ、会社役員、幹部などの上役、数百人が出席すると聞いている。
式典への出席はすべての社員ができるものではないため、光栄で名誉あるもの。
しかし、裕翔さんから式典への出席を求められてから私の心はずっと落ち着かない。
先週の土曜日に三ツ橋さんに呼び出されたあの一件から、裕翔さんの対応は驚くほど早かった。
翌日には問題の出版社から謝罪が出て、ずさんな取材や記事については他社メディアが話題に取り上げた。結果、あの記事がフェイクニュースだったことも周知された。
それについては一件落着にもかかわらず、この一週間ずっとそわそわしている。
『もう一度、両親に会ってもらえるか』
仕事上での心配ではなく、彼のご両親に会うということで頭がいっぱいなのだ。
以前、一度お会いした裕翔さんのご両親は、文句のつけどころのない素敵な方たちだった。
ご令嬢でもない名もなき家柄の私に、息子の選んだ女性ならと寛大に受け入れてくれたふたり。
大企業の跡取りともなれば、互いの家同士の結婚を重要視するのが一般的だと思う。
その大切な結婚を本人に任せるという考えを持たれているのは、自分たちの子どもを信頼し、尊重している素敵な親子関係が存在しているのだとも思った。
あの日は、次に会うのを楽しみにしていると言って別れたご両親。
でも、思わぬところから私がバツイチだということを知り、驚き、不信感を抱いただろう。