冷徹CEOは不幸なバツイチ女子を偽装婚約者に選びたい

2、冷徹CEOに脅され……



 四月最後の週末、日曜日。

 五月の大型連休も差し迫った今日。私は朝から姿見の前で服をとっかえひっかえして頭を悩ませていた。

 ベージュのワンピーススーツか、スモーキーブルーのデザインワンピース。

 どちらも膝が隠れる上品な丈で、畏まった席で着用しても問題ない。

 スモーキーブルーのワンピースは爽やかな印象。ベージュのワンピーススーツは間違いなく正統派だ。


「……。こっちかな」


 悩んだ挙句、決めたのはベージュのワンピーススーツ。スモーキーブルーのワンピースはクローゼットの中にかけ直した。

 今日は。七瀬CEOから依頼をされた例の日。

 婚約者のフリなんて絶対無理だと思って断ったけれど、結局、人事異動の魅力に負けて請け負ってしまった。

 あとになってから、とんでもないことを引き受けたとゾッとした。

 でも、後悔する間もなくスケジュールを伺われ、今日の日が決定。もう引き返すことはできないから前に進むしかない。

 七瀬CEOからは今日の日についての連絡が数度届いた。

 日時と場所、ご両親についてや、どんな話をするかの予測など、当日の段取り的な内容で、業務連絡のようなものだった。

 その内容に基づいてイメージトレーニングをして今日の日を迎えたけれど、いざ当日を迎えるとすべて吹っ飛んでいく勢いで緊張している。

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