冷徹CEOは不幸なバツイチ女子を偽装婚約者に選びたい
5、華麗なる縁談白紙
「じゃ、とりあえず乾杯しよう!」
「そうですね」
運ばれてきたふたつのビールジョッキは、白くなるほどキンキンに冷えていて見るからに美味しそう。
それぞれ手に持つと、彩子先輩が「じゃあ」と思いついたように言った。
「今日は、知花ちゃんの新たな門出が順調ということで、それに乾杯だね」
「え、そんな乾杯してもらっていいんですか」
「いいに決まってるでしょ! じゃ、乾杯!」
グラスを重ね合わせて、お待ちかねのひと口目。冷たいビールが五臓六腑に染み渡る。
七月も中旬。
今年は例年より少し早い梅雨明けで、もう関東も先週梅雨明け宣言が発表された。
すでに暑い日が多く、いよいよ夏本番だ。
冷たいビールが美味しい季節がやってきた。
今日は異動後初めての彩子先輩との飲み。串揚げ居酒屋に来ている。
私が落ち着いたタイミングで予定を合わせて会おうと言ってくれていて、都合をつけてくれた。
異動後、オフィスが変わり顔を合わせなくなってしまったけれど、なにかと気にかけて連絡をしてくれていた彩子先輩。
部署が変わっても変わらず面倒をみてくれる先輩になんてなかなか巡り合えないと思う。感謝しかない。
「頑張ってるみたいじゃん」
お通しの枝豆を食べながら彩子先輩は「本当に良かったよね」としみじみ言った。