冷徹CEOは不幸なバツイチ女子を偽装婚約者に選びたい

6、ふたりきりのサプライズバースデー



 八月、盆休み。

 今年は後半の三日間を実家へと帰省することにして、二泊三日の滞在を計画。

 例の縁談話も消失し、無事に帰ることができた。

 当初はどうごまかして帰れないと言おうか頭を悩ましていたけれど、それももう考えなくて済むようになった。


「なに、にこにこ人の顔見て」


 実家最後の晩、家族で食卓を囲んだあと、リビングでくつろいでいると母が私の顔を見て笑みを浮かべている。

 今回帰省して、母はずっとそんな調子だ。終始機嫌がいい。


「知花が、あんな地位のある方と知り合いになるとは未だに信じられなくて。しかも、あんな一般人とは思えないイケメンで」

「イケメンて、お母さん……」

「え? じゃあなんて言うのよ。韓流スターみたい、とか?」


 ひとり盛り上がる母を前に、ついため息が漏れ出る。

 こうしてわざわざ話題に出るほど、裕翔さんが眉目秀麗でモデルみたいな人だとは私も常日頃思っている。

 母は普段、あまりこういうことを言わないタイプの人だから、やっぱり裕翔さんはずば抜けているのだ。


「もう、それでそんな満面の笑みだったの?」


 疑惑の目を向けて抗議すると、母は「やだ、違うわよ!」と言い返す。


「いや、良かったなって、思ってさ」

「それ、今回帰ってきてから何回言ってるの」


 帰ってきて会うなり「本当に良かったわね」から始まり、もう何度も〝良かった〟と言われている。

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