『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
疑念の輪郭
管理会社の応接室は、白く冷たい照明に照らされていた。

神谷は刑事とともに、テーブル越しに座る一人の男を見つめていた。

中原孝志、四十五歳。
このマンションを担当する清掃および設備点検の業務委託者。
表情には愛想があり、言葉も淀みなく、いかにも“手慣れた対応”を見せていた。

「ええ、確かにその日も巡回していました。
報告書にも記録がありますし、特に不審なことはしていませんよ」

刑事が資料をテーブルに置いた。

「ですが、中原さん。
この時間帯の出入りについて、履歴には“未記入”があります。
それと一致するタイミングで、監視カメラの映像に、あなたと思しき人物が映っている。
清掃業務とは言いがたい、居住エリアでの行動も確認されているんです」

中原の目が、一瞬だけ動いた。
だがすぐに、笑みを含んだ声が返ってきた。

「それは……報告漏れだったかもしれません。
少し前に、鍵の返却で入ったことがあるんです。
慣れてるぶん、つい記録を忘れてしまったのかもしれません」

神谷は、その言葉を聞いてもなお、表情を変えなかった。

(“つい”で済ませられるレベルか……?)

表面上は誠実な態度。
だが、その中に混じる――どこか“用意された言い訳”の匂い。

それが、神谷の中で、静かに輪郭を帯び始めていた。
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