『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
新しい一歩
「橋口さん、ちょっといいか」

昼下がりの事務所で、書類整理をしていた美香奈に、
真木弁護士が静かに声をかけてきた。

「はい。どうされましたか?」

「最近、うちが法的連携をしている支援センターから、相談があってね。
被害者対応の現場に、もう少し“法的な視点”を加えたいという話が出ている」

「……支援センター、ですか」

「うん。主担当は、臨床心理士の先生がついている。
精神的なケアを中心にしているが、法的な手続きや行政対応の部分でサポートが必要になる場面もある。
そこに、君が“補佐”として関われないか、という依頼が来ているんだ」

美香奈は、胸の奥がゆっくりと熱を帯びていくのを感じた。

「……私に、できるでしょうか。まだ……怖さが残ってる自覚もあるんです」

真木弁護士は、ゆっくり首を振った。

「君だからこそ、当事者の気持ちに寄り添える。
だが、主担当ではなくていい。
心理士がケアの中核を担い、君は“専門家としての後ろ盾”になってくれればいいんだ」

少し考えたあと、美香奈は口を開いた。

「……なら、やってみたいです。
誰かを支える輪の一部になれるなら」

「うん、それでいい。
来週、一度顔合わせの場を作る。心理士の方も、話しやすい人だから安心していい」

そう言って、真木は薄いファイルを一冊、机の上に置いた。
表紙には、支援センターのロゴとともに、優しいフォントでこう書かれていた。

「被害者支援連携記録ノート」

小さな一歩。
でもその一歩が、また誰かの“生きる”を支えると信じて。
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