死ぬ前に後悔したくないからと婚約破棄されましたが、溺愛されました
「ミアさん、それでいつ提出します?そろそろお腹も目立ってきましたよね?私としては今すぐにでも大丈夫なので、今日もこうして婚姻届を持ってきました。後はミアさんが記入するだけです。さぁ、どうぞ」


目の前には、澄んだ空色の瞳でじっと見つめてくる男性が坐っている。ニコリと微笑みを浮かべて。

爽やかな印象の好青年。

まるで、郵便物の宛名を書くような気軽さで、署名を勧めてくる。

茶封筒からとりだした婚姻届をテーブルに広げて、指先で「あぁ、こちらですからね♡」と、指し示してくる。

ペンを私の前に置く仕草も、その何気ない行動全てから色気がだだ漏れている。


いやいやいや、ダメでしょう?

そんな気軽に結婚なんてできるはずがない。

まぁ、確かにちょっとお腹がふっくらとしてきてはいるけれど……。

そう、この子の父親は目の前の人だ。

けれど、私は単なる町娘、彼は伯爵家の子息。

釣り合う訳がない……。


「お、お、お、お断りします!」


不敬罪で罰せられるのではないかという恐怖から、ぶるぶると震えながらも、盛大に婚姻届けを破り捨てる。

「お帰りはあちらです!」
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