蜜味センチメンタル
プロローグ
「二度と、恋なんてしない」
あの日、心の中でそう決めた。
大切だった人を失い、忘れることもできず。
それでも普通の顔をして働いて、生きていくしかなかった。
それが、大人になるってことだと、思っていた。
だけど——
「セカンドバージンを、僕にください」
出会いは最悪だった。
軽くて、自分勝手で、どこか憎めない年下の彼。
最初はただの遊びだと思ってた。
暇つぶし。気まぐれ。ただの穴埋め。
……なのに、どうして。
あなたのその目は、嘘じゃないって、思ってしまうんだろう。
それは、甘くて、ほろ苦くて、
ときどき喉の奥に張り付くような——
まるで、蜜みたいな恋だった。
優しさにすがれば、寂しさが滲み出して、
笑いあえばあうほど、触れられない距離を思い知らされる。
ひとくち目は甘くて、
あとからじんと苦くなる、
そんな“蜜味”みたいな感情の物語。
名前をつけるなら、
——センチメンタル。
それが、この恋の味だった。
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