蜜味センチメンタル
聖夜の告白
クリスマス当日。
金曜日のオフィスは年末進行の名残と忘年会の準備でどこかそわそわしていたが、羅華はそれらに巻き込まれまいと、着々と仕事を片づけていた。
定時で切り上げることは叶わなかったが、いつもよりは早い時間にパソコンの電源を落として上着に手を伸ばす。そうしたところで、背後からふいに声がかかった。
「原岸さーん、この企画案なんですけどー…って……あれ?もう帰るんですか?」
振り返ると、鎌田が書類を抱えたままきょとんとした顔で立っていた。
そして羅華の顔を見るなり、ピンと来たように口元を緩ませる。
「あ、分かった。デートだ?」
「!?ちが…っ」
言いかけて、やめる。これまでならここで意地になって否定していた。
けれど今日の羅華はいつもと様子が違うし、どう見たってソワソワしていた。
「誘えたんですね。伝える覚悟、できました?」
相変わらず恋愛においては抜群の鋭さを発揮する鎌田。羅華は一瞬だけ口を閉ざし、それから静かに微笑んだ。
「………うん、ようやく」
羅華は静かに微笑んでそう答えた。自分でも驚くほど自然に、心の底からその言葉が出てきた。
鎌田が目を丸くする。
「なーんだ。原岸さんも私と同じ仕事に追われるクリぼっち仲間だと思ったのに。残念」
不満を口にしながらも、鎌田はどこか楽しそうだった。
「じゃあ、行ってらっしゃい。よいクリスマスを」
「……ありがとう。鎌田さんもね」
羅華は軽く会釈をして、会社のドアを後にした。