蜜味センチメンタル
泡沫の恋

月曜の朝一番、営業部の朝のミーティングにて部長から怒号が落とされた。曰く部内全体のミスだとか、下の教育もまともに出来ないのかとぐちぐちと。

言っている事は分かるが週明けの朝は何かと忙しいので出来れば早めに解放されたい。

とりわけ、隣の席にいるミスをした張本人がそれを右から左へ聞き流しているのか、先程から目の焦点が合ってない。おそらく全く響いておらず、それが分かると余計にそう思わざるを得なかった。

「おい鎌田(かまた)、聞いているのか!?」

詰め寄られれば、後輩の女は一瞬「マズイ」といった顔をし、すぐさま瞳を潤ませた。

「ごめんなさぁい…他社との入稿日が重なってしまってパニクってしまってぇ…っ」

よくもまあいけしゃあしゃあと。その涙が先程欠伸を噛み締めた時に出たものだと、羅華は知っている。

しかしこのご時世、泣かれてしまってはパワハラだの訴えられかねない上司はそれ以上はヒートアップ出来ず、その矛先は隣にいた羅華へ向く。

原岸(はらぎし)!お前も隣が困ってるなら声をかけるなりして配慮をしろ!まったく気が利かない…」

余裕がないのは羅華とて同じ。というより、そうなっている原因はあなたが無理なスケジュールを押し進めようとしたからなんですけどねと内心で毒づく。

「…すみません…」

とはいえ、だがたかだか入社4年目の若輩者がそんなことを進言できる訳でもなく、羅華は口先だけの謝罪を述べ、無心で怒鳴り終わるのを待った。

それから半刻ほどでようやく解放され、外回りに向かう同僚達を見送る。今日の予定が内勤である羅華は椅子に座り直し、企画資料の最終調整に入った。

この後は午前に1件リモートの打ち合わせ、午後からはクリエイティブチームとの会議も控えている。

営業という仕事もあり正直座って作業している時間より話している時間の方が多いのだが、隣の女は少し違うようだった。


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