蜜味センチメンタル
ぬくもりの中で、ほどけた糸
二月。
朝の空気にはまだ冷たさが残るけれど、日差しの角度がほんのわずかに柔らかくなってきた。
どこか春の気配を含んだ空を見上げながら、羅華はマフラーをぎゅっと首に巻き直す。
玄関のドアを開けると、ちょうど階段を上がってくる足音が聞こえた。
「おはようございます、羅華さん」
振り返ると、那色が立っていた。
白い息を吐きながら、少し照れたように微笑んでいる。寒いのに、髪の先に少し寝癖がついていて、そんなところも愛おしかった。
「おはよう、じゃなくて、どこ行ってたの?」
「食材の調達に。朝ごはん作ろうと思ったのに冷蔵庫に何もないから」
「じゃあ私も起こしてくれたら一緒に行けたのに……」
「昨日無理させちゃったから、寝かせておいてあげたくて」
甘ったるい声で囁くように言い、那色は羅華を抱き寄せる。そのままキスをされ、羅華の顔は真っ赤に染まった。
「那色くん!ここ外だよ…っ」
羅華がドアを開けると、那色は「失礼します」と小さく呟いて中に入る。
彼の足音と共に、冷たい風も少しだけ吹き込んだ。
キッチンにはあらかじめ用意していたホットミルクの香り。
マグカップを差し出すと、那色は「ありがとうございます」と少しだけ眉を下げて受け取る。
「行ってたのって近くのスーパー?」
「そうですよ」
「じゃあチョコレートの広告、すごかったでしょう?」
「ええ、あちこちが甘ったるいピンクで満ちてましたね。コンビニまで浮かれてて驚きました」
「ふふ。そういう時期だもん。……でも、浮かれてるのは、私もちょっと、かな」