蜜味センチメンタル
しがらみを解く

ふと目を開けると、やわらかな朝の光がカーテン越しに射し込んでいた。

隣では、那色が静かに寝息を立てていた。寝顔があまりに穏やかで、昨日の怒涛の出来事がまるで夢だったかのように思えた。

羅華はそっと起き上がり、ベッドの縁に腰をかけて伸びをした。

しばらくして気配に気づいたのか、那色がまぶたを開ける。

「……おはようございます、羅華さん」

寝ぼけた声に、思わず笑ってしまう。

「おはよう。ちゃんと眠れた?」

「うん。……でも、隣にいないから寂しい」

そう言いながら、那色はベッドから腕を伸ばして羅華の手首を掴む。

「……今日は甘えん坊だね、那色くん。昨日はかっこよかったのに」

「だってこうやって朝をゆっくり一緒にいられるの、久しぶりだから」

あっさり言い切るその顔が少しだけふてぶてしくて、でも可愛かった。引き寄せられるように、羅華もベッドに戻る。

那色の指先が、そっと羅華の頬に触れる。昨夜の腫れが引いたのを確かめるように、やさしく撫でてくる。

その指先の温度が心地よくて、羅華も力を抜いた。
ふたりの距離が、自然に縮まっていく。

「こうやって上手に使い分けるの、なんかずるい」

「うん。ずるくしてる」

囁くような声。まつげが触れ合う距離で、唇がそっと重なった。

静かであたたかいキスに、心の奥がしずかにぬくもりで満ちていく。
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