蜜味センチメンタル
決意の灯火
・*†*・゚゚
仕事を終えてオフィスを出た瞬間、細かな雨が頬に触れた。
空は灰色に沈み、夜の帳がいつもより早く落ちている。
那色は立ち止まって空を見上げた。低く垂れこめた雲の隙間から、わずかに光る街灯がにじんでいる。どこか胸の奥が、ずっと重いままだった。
父と話したあの日から、数日経った。けれどそのとき感じた重さも、温度も、まだ那色の中で言葉になってはいなかった。
──あの人は、自分の過去を語り、頭を下げた。
謝罪は本物だった。後悔も苦しみも、すべてに嘘はなかったはずだ。
けれどそれをどう受け止めたらいいのか、那色にはまだ分からなかった。
──あれが、あの人なりの誠意だったんだろう
ようやくそう思えるようになったのは、父を許したからではなく、羅華が隣にいたからだ。彼女が隣にいてくれたからこそ、父の言葉を、正面から受け取れた。
会社のこと、母のこと、過去のこと。すべてを知ってもなお包み込みように受け入れてくれた彼女の存在があるからこそ、自分はいまこうして真っ直ぐに立っていられる。
……そう、言い切れるようになったのに。
その羅華から、今日はまだ返事がない。
歩きながら、スマートフォンを取り出す。
[今夜、会いに行ってもいいですか?]
メッセージは昼には送信されていたが、いまだに既読がついていなかった。
仕事を終えてオフィスを出た瞬間、細かな雨が頬に触れた。
空は灰色に沈み、夜の帳がいつもより早く落ちている。
那色は立ち止まって空を見上げた。低く垂れこめた雲の隙間から、わずかに光る街灯がにじんでいる。どこか胸の奥が、ずっと重いままだった。
父と話したあの日から、数日経った。けれどそのとき感じた重さも、温度も、まだ那色の中で言葉になってはいなかった。
──あの人は、自分の過去を語り、頭を下げた。
謝罪は本物だった。後悔も苦しみも、すべてに嘘はなかったはずだ。
けれどそれをどう受け止めたらいいのか、那色にはまだ分からなかった。
──あれが、あの人なりの誠意だったんだろう
ようやくそう思えるようになったのは、父を許したからではなく、羅華が隣にいたからだ。彼女が隣にいてくれたからこそ、父の言葉を、正面から受け取れた。
会社のこと、母のこと、過去のこと。すべてを知ってもなお包み込みように受け入れてくれた彼女の存在があるからこそ、自分はいまこうして真っ直ぐに立っていられる。
……そう、言い切れるようになったのに。
その羅華から、今日はまだ返事がない。
歩きながら、スマートフォンを取り出す。
[今夜、会いに行ってもいいですか?]
メッセージは昼には送信されていたが、いまだに既読がついていなかった。