蜜味センチメンタル
柊の下の約束
駅前のロータリーは、冬の空気に沈んでいた。
吹き抜ける風に巻き上げられた落ち葉が、街路樹のイルミネーションを映して一瞬だけ金色に光る。羅華はマフラーを口元まで引き上げ、スマートフォンの画面をちらと見た。時刻は約束の五分前。
人の流れの中に、見慣れた背の高さと歩き方を見つける。胸がすっと軽くなると同時に、視線を逸らしてしまう自分に、心の奥で小さく苦笑した。
こんなにも何度も会ってきたのに、待ち合わせのたびに心がほどけていく瞬間があるのだ。
「お待たせしました」
息を弾ませながら駆け寄ってきた那色が、片手を上げる。ほんの少し乱れた前髪が街灯を受けてきらりと揺れた。
「全然だよ。今来たところだから」
羅華は笑って答える。自分でも嘘くさいとわかる台詞だったせいか、すぐに那色の目に見透かされてしまった。
「嘘つき」
那色の指先が羅華の頬に触れた。冷えた空気の中で、その体温だけが鮮やかに伝わってくる。
「顔が冷たくなってる。外で待たなくていいからあったかいところにいてって連絡しましたよね?」
「う……だって…」
「秋には熱出して寝込んだし、つい先月も風邪ひいてるのに無理して長引いたのもう忘れたんですか?」
声色は穏やかだが、そこに混じるほんの小さな拗ねが羅華の胸を刺す。那色はため息をつきながら、不服そうにつまんだ頬を軽く引っ張った。
「ごめんなひゃい……」