蜜味センチメンタル
エピローグ
「──ねえ、ママ。ママはどうして、パパとけっこんしたの?」
「んー……もちろんパパが大好きなのが一番だけど……パパに出会えたのが奇跡だったから、かな」
「それだけ?」
「それだけで、十分だよ」
笑いながら交わされる何気ないやりとり。
羅華は娘を見つめ、自然と口元にやさしい笑みが広がっていた。
ふと手を添えたお腹のふくらみが、もうひとつの小さな命の存在を静かに告げている。
長いあいだ、世界は寂しさと痛みに覆われていた。
信じることをためらい、心を閉ざすことでしか、自分を守れなかった。
色を失った日々は、ひとりきりで歩くにはあまりに長く、暗く、そして孤独だった。
その日常に光を差し込み、静かに色を与えてくれたのが、彼だった。
出会えたことは、まぎれもなく奇跡。
けれど惹かれたことは、きっと必然だった。
彼と過ごす時間には、甘さも、苦さも、切なさも、そしてあたたかさも滲んでいる。
あの日、「二度と恋なんてしない」と思っていた自分はもういない。
今ここにいるのは、愛を信じ、未来を共に歩む揺るぎない姿。
娘と楽しげに言葉を交わす羅華のもとへ、那色がゆっくりと歩み寄ってくる。
自然な仕草で隣に腰を下ろし、娘の頭を優しく撫でると、そのまま羅華の肩にも寄り添った。
羅華は隣に座る夫と娘を見やり、そっと目を細める。
その横顔に宿る静かな幸福が、何よりの答えだった。
...happy end