過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

手を握るその瞬間

病室のドアを開けると、看護師が数名出入りしていた。
部屋の空気は張り詰めていて、ただならぬ様子がすぐに伝わってくる。

ベッドの端に腰掛けた雪乃は、足を床につけて座っていた。
肩を上下させ、浅く速い呼吸を繰り返している。
その体を、遠藤が片腕で支え、もう片方の手で背中をさすっていた。

「ゆっくりね、ふーって吐いてみるよ」

雪乃はその声に応えるように、小さく頷きながら、遠藤の制服の裾をギュッと握り込んでいる。

遠藤は神崎の顔を見るなり、簡潔に状況を伝えた。

「初めは呼吸苦の訴えでした。足をおろしてもらったんですけど、強張りがかなり強いです。発症から、今でちょうど5分くらいです」

「ありがとう。声かけは任せる」

神崎はすぐにパジャマの上からボタンを三つほど外し、聴診器を滑り込ませようとした。

その瞬間、雪乃の手が神崎の手を制するように動いた。

「……いや……」
かすかな声。

「ちょっと我慢ね」

神崎はそのまま優しく手首を取って、聴診器を胸に当てる。
呼吸音はやや浅いが、明らかな異常音はない。

背部に移る際には、ベッドの反対側から看護師が手際よくパジャマをまくり上げて介助する。

神崎は次に、足元に視線を落とした。

「足、触るよ」
声をかけてから、そっとふくらはぎに触れる。

その途端──

「……いたい……やめて……」

「これ、痛い?」

雪乃は頷いた。

「わかった」

その表情から、痛みと不安が混ざった色が見て取れた。

視線を上げると、雪乃の手は今も遠藤の服を強く握っていた。
その手にそっと触れてみる。
硬直しきった指先に、彼女の必死さが宿っている。

「過呼吸だ。落ち着けば問題ないけど、一応、生理食塩水、少し持ってきて」
もう一人の看護師に小さく指示を出す。

そして雪乃の顔を見ながら、優しく声をかけた。

「雪乃、呼吸が落ち着いたら、足の痛みもきっと引くから。遠藤さんの声に合わせて、ゆっくり呼吸しててね」

その言葉に、雪乃は小さく頷き、また遠藤の声に合わせて「吸って、吐いて」と繰り返すように意識を集中させていった。

神崎はすぐ横で、それを見守りながら、呼吸のリズムが整うのを静かに待った。
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