過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
神崎先生は七福神?
雪乃は病室のベッドに座り、小さな机の上に広げられた一枚の紙を見つめていた。
それは、今月分の医療費の請求書──退院後に支払うことになる概算だった。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……」
声に出して数える指が、途中で止まった。
「……70万……って、え?」
思わずもう一度数え直す。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……」
「何やってんの?」
ちょうど部屋に入ってきた神崎が、その様子を見て笑った。
「笑い事じゃないですから! 先生、これ見てくださいよ。70万ですよ、70万!」
彼女が指差したのは、合計欄の横に印刷された数字だった。
感染性心内膜炎の治療に使われた抗生剤、CTや血液検査、点滴、そして脾損傷に対する保存的加療──
そうした医療的な費用だけで、すでに20万円近くがかかっていた。
ICUに3日間滞在したことで管理料が大きく上乗せされ、それだけで9万円。
加えて、日々の食事代やリース品のアメニティもばかにならない。
それでも何より目を引いたのは、差額ベッド代だった。
「……これ、差額ベッド代が一番高いんですけど。個室って、一泊1万2千円? それが30日で……36万?」
「うん、それは俺が勝手に入れたから」
「えっ?」
神崎は悪びれもせず、さらりと言った。
「何やってるんですか!」
「だって、俺が払うからいいでしょ? ブランドバッグでも買ってもらったと思えば」
そう言いながら、神崎は雪乃の手元から請求書をつまみ上げ、そのまま白衣のポケットに滑り込ませた。
「預かっとくわ」
「本気なんですか? 先生」
「うん。別にいいよ。俺が言い出したことだし」
神崎は、まるでさっきの金額がただのジュース代でもあるかのような顔で微笑んだ。
雪乃はしばらく黙っていたが、ふいに少しだけ照れたように口を開く。
「……神崎先生、七福神に見えてきました」
「ひとりだけどな」と返す神崎に、雪乃はつい吹き出してしまった。
笑いながらも、どこか胸の奥がじんわりと温かくなる。
それは、金額のことではなく、そこに込められた想いを受け取ったからだった。
それは、今月分の医療費の請求書──退院後に支払うことになる概算だった。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……」
声に出して数える指が、途中で止まった。
「……70万……って、え?」
思わずもう一度数え直す。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん……」
「何やってんの?」
ちょうど部屋に入ってきた神崎が、その様子を見て笑った。
「笑い事じゃないですから! 先生、これ見てくださいよ。70万ですよ、70万!」
彼女が指差したのは、合計欄の横に印刷された数字だった。
感染性心内膜炎の治療に使われた抗生剤、CTや血液検査、点滴、そして脾損傷に対する保存的加療──
そうした医療的な費用だけで、すでに20万円近くがかかっていた。
ICUに3日間滞在したことで管理料が大きく上乗せされ、それだけで9万円。
加えて、日々の食事代やリース品のアメニティもばかにならない。
それでも何より目を引いたのは、差額ベッド代だった。
「……これ、差額ベッド代が一番高いんですけど。個室って、一泊1万2千円? それが30日で……36万?」
「うん、それは俺が勝手に入れたから」
「えっ?」
神崎は悪びれもせず、さらりと言った。
「何やってるんですか!」
「だって、俺が払うからいいでしょ? ブランドバッグでも買ってもらったと思えば」
そう言いながら、神崎は雪乃の手元から請求書をつまみ上げ、そのまま白衣のポケットに滑り込ませた。
「預かっとくわ」
「本気なんですか? 先生」
「うん。別にいいよ。俺が言い出したことだし」
神崎は、まるでさっきの金額がただのジュース代でもあるかのような顔で微笑んだ。
雪乃はしばらく黙っていたが、ふいに少しだけ照れたように口を開く。
「……神崎先生、七福神に見えてきました」
「ひとりだけどな」と返す神崎に、雪乃はつい吹き出してしまった。
笑いながらも、どこか胸の奥がじんわりと温かくなる。
それは、金額のことではなく、そこに込められた想いを受け取ったからだった。