過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜

ゆっくり、ただ甘えて

回診を終えた朝、神崎と雪乃は穏やかな気持ちで病院を後にした。

タクシーに揺られながら、窓の外を流れる夏の光景をぼんやりと見つめる雪乃。

神崎はそっと彼女の手を握り、帰り道の静かな時間を共有していた。

家に着くと、軽く昼食を済ませた。
食卓の向こうで大雅が、雪乃の入院の荷物をひとつひとつ丁寧にほどきながら整えている。

「ねぇねぇ、大雅さん、なんかすごく調子いいんだよね。なんだろう、この感じ」

と雪乃が嬉しそうに言うと、ふと大胆な気持ちが顔をのぞかせた。

「大雅さんの胸に飛び込みたいな〜」

その言葉に大雅は即座に首を横に振る。

「だめだよ、それは」

「えー、いいでしょ?」

「だめだめ。傷口が開いちゃうよ、怒るからね」

本気で叱られた雪乃はふくれっ面になって、すねたように小さく口を尖らせる。

「もー…なんでよ〜」

大雅はそんな雪乃の態度に、優しい声で話しかける。

「ダメって言ってるのは、君の体のことを一番に考えてるからなんだよ。無理すると、痛いのが戻ってくるでしょ?」

そう言いながら、彼はゆっくりと近づき、雪乃の肩をそっと抱き寄せた。
体に負担をかけないように、そっと、でもしっかりと。

「今はまだね、ゆっくりと休んでほしいんだ。無理は絶対にしちゃダメ。」

雪乃は大雅の胸に顔をうずめ、静かに頷いた。

「わかったよ…大雅さん、ありがとう」

「そうだよ。無理しないで、ちゃんと甘えてていいんだよ。僕がついてるんだから」

大雅の声は穏やかで、愛情たっぷりだった。
そんな彼の言葉に雪乃は少しずつ心の緊張がほどけていくのを感じていた。

「じゃあね、今日はいっぱい甘やかしてあげるから」

「うん、お願い…」

こうして二人の穏やかな午後が、静かに始まった。
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