過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
エピローグ
夏の終わり、蝉の声が和らぎはじめ、風の匂いに少しだけ秋の気配が混じってきた頃。
神崎と雪乃は、いつものように並んでキッチンに立っていた。
大雅が魚を焼き、雪乃が味噌汁をよそい、お互いの距離感が自然と息をするように馴染んでいる。
退院から三週間。
術後の経過は順調で、週に一度の外来も、滝川先生の軽口を交えながら、すでに笑顔で通えるようになっていた。
「ねえ、大雅」
朝食のテーブルについた雪乃が、ふと顔をあげた。
「ん?」
「来年の夏も、一緒に花火見ようね」
目を細めながら、やさしく笑う。
「もちろん」
大雅は、すぐに答えた。
「来年も、その次も、ずっと一緒に見よう」
雪乃は少し頬を赤らめ、照れくさそうに視線を落としたあと、ゆっくりと言った。
「……ありがとう。助けてくれて、そばにいてくれて、私を……好きになってくれて」
「何言ってるの」
大雅は笑って、雪乃の手をそっと握った。
「ありがとうは、こっちのセリフ」
「え?」
「君が、生きてくれてることに感謝してるんだよ。こうして毎朝、同じテーブルにつけることも、手をつなげることも。全部……奇跡みたいな日常だから」
雪乃は言葉を失って、胸がきゅっと熱くなった。
命があること。
誰かを好きになれて、その人と心を通わせられること。
そんな当たり前のようでいて、どこまでも奇跡のような“いま”を抱きしめるように、雪乃はそっと手を重ねた。
「ねえ、大雅」
「なに?」
「来年の花火……ふたりで、浴衣着て、見に行こうよ」
「浴衣?」
「うん。……あと、写真も撮ろう。毎年同じ構図で、並んで笑ったやつ」
「いいね。毎年並べて、ちょっとずつ年取っていくのも、悪くない」
「ふふ……」
雪乃は、小さな笑い声を漏らしながら、言った。
「じゃあ、来年も、再来年も、再々来年も……ずっと、一緒だよ」
「うん。一緒にいよう」
ふたりの朝が、今日も静かに始まっていく。
いつか来る未来を信じて、今日を重ねていく。
花火のように鮮やかな恋は、やがてやさしい光となり、永く寄り添うあたたかな愛へと変わっていく。
それは、ふたりだけの確かな軌跡。
これからもずっと、消えないままで。
神崎と雪乃は、いつものように並んでキッチンに立っていた。
大雅が魚を焼き、雪乃が味噌汁をよそい、お互いの距離感が自然と息をするように馴染んでいる。
退院から三週間。
術後の経過は順調で、週に一度の外来も、滝川先生の軽口を交えながら、すでに笑顔で通えるようになっていた。
「ねえ、大雅」
朝食のテーブルについた雪乃が、ふと顔をあげた。
「ん?」
「来年の夏も、一緒に花火見ようね」
目を細めながら、やさしく笑う。
「もちろん」
大雅は、すぐに答えた。
「来年も、その次も、ずっと一緒に見よう」
雪乃は少し頬を赤らめ、照れくさそうに視線を落としたあと、ゆっくりと言った。
「……ありがとう。助けてくれて、そばにいてくれて、私を……好きになってくれて」
「何言ってるの」
大雅は笑って、雪乃の手をそっと握った。
「ありがとうは、こっちのセリフ」
「え?」
「君が、生きてくれてることに感謝してるんだよ。こうして毎朝、同じテーブルにつけることも、手をつなげることも。全部……奇跡みたいな日常だから」
雪乃は言葉を失って、胸がきゅっと熱くなった。
命があること。
誰かを好きになれて、その人と心を通わせられること。
そんな当たり前のようでいて、どこまでも奇跡のような“いま”を抱きしめるように、雪乃はそっと手を重ねた。
「ねえ、大雅」
「なに?」
「来年の花火……ふたりで、浴衣着て、見に行こうよ」
「浴衣?」
「うん。……あと、写真も撮ろう。毎年同じ構図で、並んで笑ったやつ」
「いいね。毎年並べて、ちょっとずつ年取っていくのも、悪くない」
「ふふ……」
雪乃は、小さな笑い声を漏らしながら、言った。
「じゃあ、来年も、再来年も、再々来年も……ずっと、一緒だよ」
「うん。一緒にいよう」
ふたりの朝が、今日も静かに始まっていく。
いつか来る未来を信じて、今日を重ねていく。
花火のように鮮やかな恋は、やがてやさしい光となり、永く寄り添うあたたかな愛へと変わっていく。
それは、ふたりだけの確かな軌跡。
これからもずっと、消えないままで。