君ともう一度、 恋を始めるために
自覚

突然の登場

涼が帰国して半月がたち、季節で言えばもうすぐ立冬。
少しずつ肌寒さを感じるようになって、神崎家を巡る報道も少し落ち着いてきた。
それは、涼が入院したままで何の動きもないことが原因の一つだった。
もちろん、涼が重病なのではないかとの噂は引き続き飛び交っているが、大きな動きがなければニュースのネタもないようで、世間の注目が薄れていったということのようだ。
しかし柚葉にとって、涼の容態が気になる時間は変わらずに続いている。
それどころか、時間が経てばたつだけ不安は募っていった。

「柚葉、大丈夫かい?」
「え、何が?」

仕事の休憩中に祖母から声を掛けられ、柚葉の動きが止まった。

「何か気になることがあるんだろ?」
「それは・・・」
「莉奈ちゃんは見ておくから、一度東京へ行ってきたらどうだい?東京から帰ってからずっと、心ここにあらずじゃないか」
「おばあちゃん・・・」

一生懸命平気な振りをしたつもりなのに、やはり祖母にも気づかれていた。
そのことを知って、柚葉は肩を落とした。
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