君ともう一度、 恋を始めるために

神崎涼の決意

「じゃあ、また」
「ええ。着いたら連絡をちょうだい」
「わかった」

名残を惜しむように握っていた手を放し、涼は門司駅から特急列車に乗る。
列車と飛行機を乗り継いで東京まで約3時間。
決して短い距離ではないが、柚葉に会うためなら何度でもやってこようと涼は決めていた。

列車が動き出し、見えなくなっていく柚葉。
最後まで手を振り続ける姿に、少しだけ心が痛んだ。
できることならずっと一緒にいたい。
その思いは柚葉も同じはずだ。
おそらく四年前の涼なら、強引にでも柚葉を東京へ連れて行っただろう。
そのことで柚葉の暮らしが変わることになっても、自分が必ず幸せにしてやると言ったはずだ。

ーーーあの頃の俺は、自分の物差しでしか物事を判断できなかった。

しかし、異国の地で3年間色々な文化に触れ何度も挫折を味わった今ならわかる。
柚葉が望むのは物質的な贅沢ではなく、穏やかで静かな暮らしなのだ。
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