君ともう一度、 恋を始めるために

陰謀の影

柚葉が玄関ホールに向かうと、そこには近所の住民が集まっていた。

「あの・・・」

顔と名前はわかっても、それぞれに挨拶程度しか言葉を交わしたことのない人たちばかりで、柚葉は当惑した。

「女将さんは入院中なの？」
「ええ、そうなんです。祖母に何か御用でしたか？」

何人もの人がわざわざやってくるには話があるのだろうし、集まった人々の硬い表情からいい話ではないような気がした。

「実は、いろいろと悪い噂が飛び交っていて、客足がかなり遠のいているのよ」

同じ町内で旅館を営む女性が、腹立ちげに口を開く。

「それは、どういうことですか？」

火事が起きる前からこの旅館に対する誹謗中傷めいたメールが届いていた。
誰かの嫌がらせだろうと思っていたのだが、他にも何か起きていたというのだろうか？