君ともう一度、 恋を始めるために

2年後

春の陽射しが柔らかく差し込むカフェ『風見鶏』の窓際。
柚葉は温かな紅茶を手にしながら、向かいの涼と莉奈を見つめ、ふと昔のことを思い出していた。
あの頃、逃げるようにして選んだ道がこうして穏やかに交差する日が来るとは思っていなかった。
罪悪感と再会の戸惑いを乗り越えて、それぞれが自分の答えを見つけたからこそ、今この時間があるのだと感じる。

「柚葉ちゃん、久しぶりだね。莉奈ちゃんも大きくなって」

久しぶりに会ったマスターが、遠慮がちに声をかける。

「その節は大変お世話になりました。きちんとお礼を申し上げることもなく出て行くことになり、申し訳ありませんでした」

柚葉は懐かしさよりも申し訳なさの方が先に立ち、思わず立ち上がりそうになってマスターに止められた。

「柚葉ちゃんが謝ることなんて何もない。あの頃から柚葉ちゃんは誠実に一生懸命に子育てをしていたし、私はそんな君を実の娘のように思っていたんだ」
「マスター、ありがとうございます」

柚葉は感謝の思いで深く頭を下げた。

「僕からも改めてお礼申し上げます。妻と娘がお世話になりました。本当にありがとうございました」

泣き出しそうな柚葉に代わり、スーツ姿の涼が立ち上がってお礼を言った。

「そんなことはいいんだ。それより、これからは2人のことを頼んだよ」
「はい、必ず幸せにします」

少し照れ臭そうにマスターは笑い、涼も表情を緩ませる。
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