君ともう一度、 恋を始めるために

運命の歯車

久しぶりに訪れた下関は、4年前と何も変わらなかった。
不安だった父にも思いの外穏やかに迎えられ、莉奈も喜んでいた。

「ママ、大きな橋があるよ」
「そうね、あれは九州へつながっているのよ」

丸1日かけた列車の移動で疲れていると思っていた莉奈は予想以上に元気で、実家に荷物を下ろすと近くの海岸に行きたいとせがんできた。
そこは以前涼とともに訪れた場所。
大学生だった柚葉の夏休みに涼が時間を作って一緒に山口旅行したのだ。
もちろん父にも母にも会うことができなかったけれど、2人で生まれ育った街を見るのは楽しかった。
関門海峡を見ながら「またいつか一緒に来ようね」と約束をしたことを、柚葉は忘れない。

―――約束、守れなかったわね。

幸せだったなぁと当時を思い出しながらも、もう二度とかなわない夢なのだと柚葉にも分かっている。
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