野いちご源氏物語 二六 常夏(とこなつ)
梅雨(つゆ)が明けてとても暑い日、源氏(げんじ)(きみ)は夏の御殿(ごてん)(すず)んでいらっしゃる。
お池の上に張り出してつくられた廊下は、風が通って気持ちがいいの。
若君(わかぎみ)もお(とも)なさっている。
(しゅん)の魚を御前(ごぜん)で焼かせて召し上がる。
そこへ内大臣(ないだいじん)のご子息(しそく)たちが、若君(わかぎみ)を訪ねていらっしゃった。

退屈(たいくつ)で眠くなっていたところだ。ちょうどよいところに来てくれた」
源氏の君は歓迎(かんげい)なさる。
若者たちはお酒や氷水などをにぎやかにいただいたわ。
風はよく通るけれど、空に雲がないから西日が強い。
(せみ)の声も暑苦しく響く。

「池の上でも意味がないほど今日は暑い。失礼だけれど」
と源氏の君はくつろいだ姿勢になられた。
「こんなに暑くては音楽会という気にもなれませんね。毎日をやり過ごすだけでも大変だ。私はもうめったに上がらないけれど、内裏(だいり)で働いている若い人たちはつらいでしょう。職場では着物の帯も()けないのだから。
ここではそんなにきちんとしなくてよいのですよ。近ごろ世間で起きていることで、めずらしくて眠気(ねむけ)が覚めるような話を聞かせてください。屋敷に(こも)っていると年寄りじみてきてね、世間のことに(うと)くなってしまうから」
そう言われても、若者たちはすぐに思いつかない。
神妙(しんみょう)にかしこまったふりをしている。
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