愛しのマイガール
ふたりで、一緒に
朝から風の匂いが、少しだけ柔らかくなっていた。
白いシャツに袖を通すと、肌に触れる布地の感触さえ、いつもより敏感に感じられた。今日はきっと、そういう日だ。
「るり、準備できた?」
ハルちゃんの声が階下から届く。冷たくもなく、強くもなく。けれど私の背筋を、まっすぐに伸ばしてくれる響きだった。
「うん、今行くよ」
最初の行き先は、月城グループが支援する社会福祉センターだった。
穏やかな午前の日差しが差し込むバリアフリー設計のロビーには、控えめな季節の花が飾られ、受付の女性が丁寧にお辞儀をして迎えてくれる。
同行者としての私は、ハルちゃんの少し後ろ。ほんの一歩、右隣に立つ。それだけのことが、なぜか胸の奥をそっと揺らした。
月城グループは、ホテルやリゾート、レストランといったホスピタリティ事業を中核に置く企業体だ。けれど“迎える”という理念は、そうした表舞台だけに限らない。
社会的弱者や子どもたち、文化や芸術といった“すぐに利益にならないもの”にこそ、積極的に関わる。ハルちゃんは、そんなグループの方針を静かに体現していた。
彼は、スタッフの目を見て丁寧に話す。
子どもたちの描いた絵に視線を落としながら、「いいな」と口元をほころばせる姿には、まだ私の知らないハルちゃんがいた。
視察を終えた後は応接スペースで支援先の代表者と話すことになり、私も彼の隣に座り、同席させてもらった。