愛しのマイガール
恋をした罰を受けるなら
❁。✩
都内の高級ホテル。
上階のラウンジでは、業界人や報道関係者が集う、招待制のクローズドなサロンが開かれていた。
ソファ席では数人の記者たちがグラスを片手に談笑していたが、そのうちのひとりがスマートフォンを差し出すと、場の空気が微かに変わった。
「これ、知ってるか? 例の“婚約者様”の件」
その一言に、周囲の視線が一斉に集まる。
男のスマホには、男女が向かい合っている写真が映し出されていた。絶妙な角度で切り取られた一枚。まるで人目を忍ぶ“密会”を思わせる構図だった。
「……この男、榊じゃねえか? 九条の“駒”だって噂の」
「女の方は蓬来のお嬢様か。最近、月城の御曹司との婚約が発表されたばかりだろ。これは……えらい火種だな」
記者のひとりが低く笛を吹くように呟く。
「週刊誌は月城が圧力かけてるって話だけど、こういうのはかえってネットのほうが拡がるからな。“名前を出さない誹謗”の方が、今どきよっぽど効く」
スマホの画面をスライドさせると、SNSには《あの人》《自分の立場わかってる?》《昔ちょっと芸能寄りだった某令嬢》といった曖昧な投稿がずらりと並んでいた。
「匂わせ、全開だな……」
名指しはされていない。けれど、誰の事を指しているかはすぐに察しがつく。そう仕組まれた“空気”だけが、じわじわと拡散していく。
都内の高級ホテル。
上階のラウンジでは、業界人や報道関係者が集う、招待制のクローズドなサロンが開かれていた。
ソファ席では数人の記者たちがグラスを片手に談笑していたが、そのうちのひとりがスマートフォンを差し出すと、場の空気が微かに変わった。
「これ、知ってるか? 例の“婚約者様”の件」
その一言に、周囲の視線が一斉に集まる。
男のスマホには、男女が向かい合っている写真が映し出されていた。絶妙な角度で切り取られた一枚。まるで人目を忍ぶ“密会”を思わせる構図だった。
「……この男、榊じゃねえか? 九条の“駒”だって噂の」
「女の方は蓬来のお嬢様か。最近、月城の御曹司との婚約が発表されたばかりだろ。これは……えらい火種だな」
記者のひとりが低く笛を吹くように呟く。
「週刊誌は月城が圧力かけてるって話だけど、こういうのはかえってネットのほうが拡がるからな。“名前を出さない誹謗”の方が、今どきよっぽど効く」
スマホの画面をスライドさせると、SNSには《あの人》《自分の立場わかってる?》《昔ちょっと芸能寄りだった某令嬢》といった曖昧な投稿がずらりと並んでいた。
「匂わせ、全開だな……」
名指しはされていない。けれど、誰の事を指しているかはすぐに察しがつく。そう仕組まれた“空気”だけが、じわじわと拡散していく。