愛しのマイガール
すべてを越えて
❁。✩


夜の静けさが、邸を優しく包んでいた。
カーテンの隙間から見える街の灯りがどこか穏やかに感じられる。薫子さんと向き合った昼間のことは、もう胸の中で整理がついていた。

怖かったし、悔しかった。

でも、それ以上に思ったのは、どんなに否定されても、私は一人じゃないということ。あの人の言葉に惑わされる必要なんて、ない。

そんなことを考えていたとき、部屋の扉が開く音がした。

「るり!」

ハルちゃんが慌てた様子で部屋に入ってきた。
思わず笑みがこぼれ、立ち上がる。

「おかえり、ハルちゃん」

ハルちゃんは険しい顔をしていた。珍しい。いつも落ち着いている彼がノックも忘れ、こんな怖い顔をするなんて。

「九条が来たって聞いた。大丈夫だったか?何もされてないな?」

言うが早いか、そっと肩を抱かれる。その腕の温もりが少しだけくすぐったくて、でも、嬉しい。

「大丈夫だよ」

ハルちゃんの腕の温もりが優しく胸の奥を満たしてくれて、自然とそう口にしていた。

「怖かっただろ。よりによって俺がいないときに……」

「確かにちょっと怖かったけど…でも、全然平気だよ」

笑顔でそう言うと、ハルちゃんの顔にほんのわずか安堵の色が差した。けれどハルちゃんは、すぐに顔を引き締めた。

「あの女の思い通りにはさせない。……今日、正式に訴訟の準備を整えてきた」

「……うん」

頷きを返すと、ハルちゃんは私の肩を包む手に少し力を込めた。



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