愛しのマイガール
初恋は、愛になる
結婚会見を前にした控室は、驚くほど静かだった。
さっきまで廊下の向こうから聞こえていたざわめきも、今は厚い扉に遮られて遠くに霞んでいる。
鏡の前で、緊張しきった顔をした自分と目が合った。セットされた髪も、淡い色のドレスも、全部似合ってると言われた。
けれど胸の奥は、やっぱりまだざわざわしていた。
「大丈夫か?」
ふいに声をかけられて振り返ると、ハルちゃんがすぐそばにいた。いつものスーツ姿なのに、どこか今日はほんの少しだけ柔らかく見える。
「……うん。ちょっと緊張してるだけ」
私は苦笑いを浮かべながら、膝の上で手を組む。するとハルちゃんはふと笑って、そっと私の手を取った。
「世間がどう言おうと、堂々としていればいい。……何があったって、俺が欲しいのは君だけだよ」
どこまでも真っ直ぐな言葉が、私の緊張を解いていく。私は小さく息を吐き、彼の手をぎゅっと握り返した。
「……私も、だよ。ハルちゃん」
声が少しだけ震えた。緊張か、それとも恥ずかしさか、今は分からない。けれどそれを聞いたハルちゃんは、嬉しそうに目を細めた。
「行こう」
私の手を取ったまま、ゆっくりと立ち上がる。
扉の向こうには、世間の注目も、たくさんの視線も待っている。
だけどもう、怖くない。彼が、ちゃんとこの手を繋いでくれているから。
世界で一番の味方が、そばにいてくれるから。
私はハルちゃんと肩を並べながら、控室をあとにした。その手のぬくもりだけを頼りに、静かに、強く。