愛しのマイガール
壊れた日常
朝の支度は、毎日ちょっとだけ慌ただしい。でも、どこかこの時間が好きだった。

「〜♪」

鏡の前で鼻歌を歌いながら、ブラシで軽く髪を整える。薄くリップを引いて、白いブラウスの襟を指でなぞった。

ミントグリーンのジャケットを羽織ると、鏡の中の私が少しだけ背筋を伸ばして、にこっと笑った。

「……よし、完璧！」

清潔感と、控えめな可愛らしさ。美容クリニックの受付スタッフとしての第一印象は、何より大事だと思ってる。

小柄で華奢な体に、透けるような肌、大きな瞳。いわゆる“清楚系”と呼ばれる外見は、ありがたいことに患者にもスタッフにもウケがいい。

職場のクリニックは都心の一角にあって、プライバシー重視の完全予約制。芸能関係者や、いわゆる富裕層の方たちが多く訪れる場所。求められるのは、受付としての丁寧さだけじゃない。空気を読む力も、笑顔のタイミングも、けっこう重要。

電車で一本、あっという間の通勤を終えてクリニックに着くと、白とベージュを基調にした落ち着いた院内が出迎えてくれた。

廊下を抜けてロッカールームに入り、制服に着替える。
“Reception / Ruri Hōrai”
控えめにきらりと光る名札を胸に添えたとき、少しだけ気が引き締まる。

受付に入ると、先に来ていた同僚が声をかけてくれた。

「おはようございます、蓬来(ほうらい)さん。今日、午後にVIPのご予約が入ってます」

「ありがとうございます。準備しておきますね」

笑顔で返しながら予約表を確認する。顧客ごとの注意点も、スタッフみんなでしっかり共有するのがルール。
淡々としたルーティンだけど、気を抜ける瞬間なんてひとつもない。

やがて時計の針が10時を指す。
今日も、予約の名前が並ぶ一日が始まった。

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