愛しのマイガール
終章
月城邸の中庭には、今日も淡い花の香りと穏やかな風が満ちていた。
薫子さんの件もすっかり落ち着き、世間も少しずつ騒ぎを手放し始めている。
記者会見の日のことは、もうずいぶん前のことのようで、それでも私の胸の奥にはあの日の記憶が鮮やかに残っていた。
ふと振り返ると、ハルちゃんが木漏れ日の下に立っている。その姿を見ただけで、胸が甘くしびれる。
昔、私が無邪気に言ったあの言葉。
「おおきくなったら、ハルちゃんとけっこんする」
あのときはただ、大好きな人の隣にいたかっただけ。
けれど今は違う。
たくさん傷ついて、遠回りして、何度も立ち止まりながら、それでもこの人の隣に辿り着いた。
初恋が叶うなんて、奇跡みたいなこと。
でも、それをただの奇跡で終わらなかった。それもぜんぶ、ハルちゃんのおかげ。
「るり。おいで」
ハルちゃんが微笑んで、両手を広げる。
「…ハルちゃん!」
私は駆け足で飛び込み、ふたりでぎゅっと抱きしめあった。
「行こうか」
「うん」
ふたりの影が並んで、陽だまりの中に溶けていく。
初恋が、今は愛という名前になった。そしてそれは、これから先もずっと私たちを包んでくれる。
ハルちゃんとなら、どんな未来もきっと乗り越えられる。
私はもう、そうを信じられる。
小さな頃の私へ。
あのとき言ってくれて、ありがとう。
そして、これからもよろしくね。
物語は、ここからまた新しいページをめくっていく。
──愛しのマイガールは、永遠に。
Fin...