愛しのマイガール
名を告げる夜

懇親会の当日。

鏡の前で、私は小さく息を吐いた。
スモーキーグレーのドレスは、ハルちゃんが用意してくれたもの。
ほんの少しだけ光沢のある生地に、肩先とウエストのあたりに淡く銀糸の刺繍があしらわれていて、派手ではないけど品のある印象だった。

鏡に映る自分の姿は現実離れしてるのに、びっくりするくらい似合っていた。

扉がノックされて、ゆっくりと開く。

中に入ってきたハルちゃんと目が合った瞬間、彼がほんの一瞬だけ、目を見開いた。そしてすぐにやわらかく目元を緩め、笑みを浮かべる。

濃紺のスーツに、私のドレスと同じグレートーンのネクタイ。
スーツの裏地にまで、さりげなくドレスと同じ生地が使われているのがわかる。

「……ハルちゃん、そのネクタイ…」

思わずそう聞くと、ハルちゃんは軽く頷いた。

「るりとお揃い。見た目でも“特別”だって伝わりやすいだろ」

流れるように甘い言葉を吐くハルちゃんに、頬が熱くなる。
ハルちゃんはこうして、どこまでも私を特別だって思わせてくれる。

「るり、すごく綺麗だよ」

「!あ、ありがとう……でも、こういうの着慣れないから、ちょっと落ち着かなくて」

「そうなのか?モデルの仕事とかで慣れてるのかと思った」

「私はあくまで読者モデルだから。そんなに頻度があったわけじゃないし、読者から"身近に感じられる存在"ってイメージでさせてもらってて…」

言い終わる前に、私は声を詰まらせてしまった。



< 43 / 200 >

この作品をシェア

pagetop