愛しのマイガール
名を告げる夜
懇親会の当日。
鏡の前で、私は小さく息を吐いた。
スモーキーグレーのドレスは、ハルちゃんが用意してくれたもの。
ほんの少しだけ光沢のある生地に、肩先とウエストのあたりに淡く銀糸の刺繍があしらわれていて、派手ではないけど品のある印象だった。
鏡に映る自分の姿は現実離れしてるのに、びっくりするくらい似合っていた。
扉がノックされて、ゆっくりと開く。
中に入ってきたハルちゃんと目が合った瞬間、彼がほんの一瞬だけ、目を見開いた。そしてすぐにやわらかく目元を緩め、笑みを浮かべる。
濃紺のスーツに、私のドレスと同じグレートーンのネクタイ。
スーツの裏地にまで、さりげなくドレスと同じ生地が使われているのがわかる。
「……ハルちゃん、そのネクタイ…」
思わずそう聞くと、ハルちゃんは軽く頷いた。
「るりとお揃い。見た目でも“特別”だって伝わりやすいだろ」
流れるように甘い言葉を吐くハルちゃんに、頬が熱くなる。
ハルちゃんはこうして、どこまでも私を特別だって思わせてくれる。
「るり、すごく綺麗だよ」
「!あ、ありがとう……でも、こういうの着慣れないから、ちょっと落ち着かなくて」
「そうなのか?モデルの仕事とかで慣れてるのかと思った」
「私はあくまで読者モデルだから。そんなに頻度があったわけじゃないし、読者から"身近に感じられる存在"ってイメージでさせてもらってて…」
言い終わる前に、私は声を詰まらせてしまった。