愛しのマイガール
やさしい場所へ、ふたりで
朝の光が差し込むホテルの一室。
カーテンをかすかに揺らす風の音を聞きながら、私はスマホを手に取った。
〈月城グループ専務・月城巴琉氏、婚約者を正式発表〉
大手経済紙の見出しが、スクリーンいっぱいに表示されている。
芸能メディアやSNSでも、同じ話題が次々と広がっていた。
〈月城家の御曹司、婚約発表。お相手は“元読モ美女”〉
〈名家×財閥の政略結婚〉
〈蓬来琥珀の長女、ついに表舞台へ〉
記事には、私の過去の宣材写真とハルちゃんのビジネススナップが並べて貼られている。
まるで、“並んで撮った”かのように編集されて。
名前や写真こそ控えめだが、先日の出来事がもう世間に届いていた。
(本当に…婚約者、なんだな)
そんな実感が、じわじわと胸に広がっていく。
私の名前が、写真が、まるで素材のように扱われている。
祝福の言葉もあるけれど、それ以上に多いのは、憶測と偏見、根拠のない批判。
ただ肩書きと事実だけが、一人歩きしていた。
「……ふう」
気持ちを切り替えようと、カーテンを開ける。
まばゆい朝の光が部屋に差し込んだ。
私は今もまだ、月城グループ所有の高級ホテルに仮住まいさせてもらっている。